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プロローグ
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ドガーン、ダン!ボヮッ!!
突如大きな揺れと共に炸裂した爆発音。高度8400メートル。遥か下に広がるのは見渡す限り一面の海。太平洋のど真ん中。
「キャー!!何なの!?何が起こったの!?」「おい!誰か説明しろ!」「俺たちは死ぬのか!」「もう終わりよ。ここで死ぬんだわ」「神様!どうかこの子だけはお助けください!」「嫌だ。まだ死にたくねぇ!」「うわぁーぁーぁー!おかーさーん!」
飛行機という密室に閉じ込められた乗客達は、それぞれが大声で喚き散らし、パニックを起こしていた。
すると、早くも機内のあちらこちらで乗客を落ち着かせる為、客室乗務員達が声を張り、乗客が席に着くように誘導を始めていた。
客室乗務員から視線を外し、私は初めに衝撃が起きた方向に視線を向け、原因と思わしきものが何かを探した。なるほど。どうやら右翼側のエンジンが爆発したらしい。私が座っている左側の窓際の席から、反対側の窓の外では激しい炎が上がっているのが見える。どこかに穴でも開いたのか、機内が煙たくなってきた。そして、ガタンッという音と共に、頭上の方から酸素マスクが落ちてくる。乗客達はこれを見るに、慌てて手に取り装着していた。
慌てることなくゆっくりと酸素マスクを手に取り、私も酸素マスクを着ける。私は、“あいつら”と会わなくて済むなら別に死んでも構わないんだが、先程からこちらをチラチラと見てくる客室乗務員がいる為、声を掛けられないようにしておこう。私の我が儘のせいで、命を懸けて職務を全うしようとしている客室乗務員の人に迷惑はかけたくない。
人生において使う機会が来るとは全く思っていなかった酸素マスクを使いながら、酸素マスクに関する情報を頭の中引きずり出す。
酸素マスクは、製造会社にもよるが最大で15分しかもたないらしい。酸素の薄い高度から、普通に息が出来る高度まで降りる時の繋ぎとして想定されているようだ。そういえば、この間観た映画で酸素マスクの使用時間がオーバーになってしまい、機長含め主人公以外全員意識を失うという場面があったのだが、現実では間に合うのだろうか。
ほぼ片翼の状態で、乗客を気にしながら徐々に高度を落としていくのは、操縦方法を知らない私のような素人にでも難しいだろうことは想像に難くない。あの映画のような主人公が現れるはずもない。時間が足りなくなる可能性は高いのではないだろうか。まあ、そんなのんきなことを考えている場合ではないな。
機内の大型モニターに目をやる。そこには、今この機体がどのあたりを飛んでいるのかが映し出されていた。機体を中心に半径数キロメートルの距離が映し出されている。画面はすべて青だった。中央の赤く点滅している点を除いては。緊急着陸出来る陸地など、どこにもあるはずがない。そもそもここは、太平洋上だ。海面への不時着になりそうだな。
酸素マスクが落ちてきてから大体3分が過ぎ、徐々に機体が右下に傾き時計回りに旋回しだす。
さらに暫くして、目に見えて高度が下がりだしたのが確認できた。雲の層から完全に下に出たのだ。飛行機の軌道から考えて、どうやら現在は右のエンジンを停止し、左のエンジンのみで飛んでいるようだ。
それから少しして、機長と名乗る男の声が機内アナウンスを開始する。
「ご搭乗の皆様、大変申し訳ございません。皆様ご存知のことと思われますが、只今、エンジン事故が発生しております。よってこれより、海上に緊急着水致します。非常に揺れる事が予想されます。危険ですので、シートベルトをしっかりお締めの上、CAの指示に従うようお願い致します」
周りから不安や安堵の言葉が聞こえる。
「おい、姉ちゃん。随分と落ち着いてるな。平気なのか?」
「ええ、大丈夫です。慌てたところで何も変わりませんから」
「おー、肝が据わってるな!」
私の右隣に座っている50代程の外国人男性が、取り乱さない私を見て不思議に思ったようで声をかけてくる。あー私、英語ペラペラに喋れるようになったんだなーと、こんな状況下にも関わらず感慨深く思う。
嫌いな両親や同級生から逃げる為、交換留学生として留学を口実にアメリカへ逃亡。1年間の留学期間が終わり、日本への帰国途中に航空事故で死亡。
うん。これなら、あいつらの顔を2度と見なくて済む。そう思っていたからだろう、他人からは随分と落ち着いている様に見えていたようだ。帰国は凄く憂鬱だったのだ。死んだとしても悔いはないので問題ない。
いや、もふもふに囲まれた生活はしてみたかったな。残念だけど仕方ない。来世に期待しよう。死ねるのであれば。
「ッ!?」
急に機体が大きく前に傾く。前の座席に頭をぶつけてしまい、痛めた頭を摩りながら、窓の外を見るが、何も見えない。いや、これは煙だ。そう脳が認識した瞬間、全身を強烈な衝撃に襲われる。
鼓膜が破れんばかりの轟音が耳に直撃し、脳への直接的な衝撃が続けて襲う。頭の中に音という音が押し寄せ、脳が処理を放棄する。一切の音が聞こえなくなった。
ゆっくり目を開けて周囲の様子を確認する。今まさに、自分の席の窓が目の前で割れた。欠片が外へと一瞬で吹き飛んでいく。鉄臭い血の匂いと、頭から生暖かい何が顔を伝って流れ落ちていく。いつの間に負ったのだろうか?
ハハッ。でも、そんなことは今更どうでも良いか!
私は、薄れゆく意識の中で理解した。本当に死ぬんだと。
でも、これで私は・・・・・自由だ。
突如大きな揺れと共に炸裂した爆発音。高度8400メートル。遥か下に広がるのは見渡す限り一面の海。太平洋のど真ん中。
「キャー!!何なの!?何が起こったの!?」「おい!誰か説明しろ!」「俺たちは死ぬのか!」「もう終わりよ。ここで死ぬんだわ」「神様!どうかこの子だけはお助けください!」「嫌だ。まだ死にたくねぇ!」「うわぁーぁーぁー!おかーさーん!」
飛行機という密室に閉じ込められた乗客達は、それぞれが大声で喚き散らし、パニックを起こしていた。
すると、早くも機内のあちらこちらで乗客を落ち着かせる為、客室乗務員達が声を張り、乗客が席に着くように誘導を始めていた。
客室乗務員から視線を外し、私は初めに衝撃が起きた方向に視線を向け、原因と思わしきものが何かを探した。なるほど。どうやら右翼側のエンジンが爆発したらしい。私が座っている左側の窓際の席から、反対側の窓の外では激しい炎が上がっているのが見える。どこかに穴でも開いたのか、機内が煙たくなってきた。そして、ガタンッという音と共に、頭上の方から酸素マスクが落ちてくる。乗客達はこれを見るに、慌てて手に取り装着していた。
慌てることなくゆっくりと酸素マスクを手に取り、私も酸素マスクを着ける。私は、“あいつら”と会わなくて済むなら別に死んでも構わないんだが、先程からこちらをチラチラと見てくる客室乗務員がいる為、声を掛けられないようにしておこう。私の我が儘のせいで、命を懸けて職務を全うしようとしている客室乗務員の人に迷惑はかけたくない。
人生において使う機会が来るとは全く思っていなかった酸素マスクを使いながら、酸素マスクに関する情報を頭の中引きずり出す。
酸素マスクは、製造会社にもよるが最大で15分しかもたないらしい。酸素の薄い高度から、普通に息が出来る高度まで降りる時の繋ぎとして想定されているようだ。そういえば、この間観た映画で酸素マスクの使用時間がオーバーになってしまい、機長含め主人公以外全員意識を失うという場面があったのだが、現実では間に合うのだろうか。
ほぼ片翼の状態で、乗客を気にしながら徐々に高度を落としていくのは、操縦方法を知らない私のような素人にでも難しいだろうことは想像に難くない。あの映画のような主人公が現れるはずもない。時間が足りなくなる可能性は高いのではないだろうか。まあ、そんなのんきなことを考えている場合ではないな。
機内の大型モニターに目をやる。そこには、今この機体がどのあたりを飛んでいるのかが映し出されていた。機体を中心に半径数キロメートルの距離が映し出されている。画面はすべて青だった。中央の赤く点滅している点を除いては。緊急着陸出来る陸地など、どこにもあるはずがない。そもそもここは、太平洋上だ。海面への不時着になりそうだな。
酸素マスクが落ちてきてから大体3分が過ぎ、徐々に機体が右下に傾き時計回りに旋回しだす。
さらに暫くして、目に見えて高度が下がりだしたのが確認できた。雲の層から完全に下に出たのだ。飛行機の軌道から考えて、どうやら現在は右のエンジンを停止し、左のエンジンのみで飛んでいるようだ。
それから少しして、機長と名乗る男の声が機内アナウンスを開始する。
「ご搭乗の皆様、大変申し訳ございません。皆様ご存知のことと思われますが、只今、エンジン事故が発生しております。よってこれより、海上に緊急着水致します。非常に揺れる事が予想されます。危険ですので、シートベルトをしっかりお締めの上、CAの指示に従うようお願い致します」
周りから不安や安堵の言葉が聞こえる。
「おい、姉ちゃん。随分と落ち着いてるな。平気なのか?」
「ええ、大丈夫です。慌てたところで何も変わりませんから」
「おー、肝が据わってるな!」
私の右隣に座っている50代程の外国人男性が、取り乱さない私を見て不思議に思ったようで声をかけてくる。あー私、英語ペラペラに喋れるようになったんだなーと、こんな状況下にも関わらず感慨深く思う。
嫌いな両親や同級生から逃げる為、交換留学生として留学を口実にアメリカへ逃亡。1年間の留学期間が終わり、日本への帰国途中に航空事故で死亡。
うん。これなら、あいつらの顔を2度と見なくて済む。そう思っていたからだろう、他人からは随分と落ち着いている様に見えていたようだ。帰国は凄く憂鬱だったのだ。死んだとしても悔いはないので問題ない。
いや、もふもふに囲まれた生活はしてみたかったな。残念だけど仕方ない。来世に期待しよう。死ねるのであれば。
「ッ!?」
急に機体が大きく前に傾く。前の座席に頭をぶつけてしまい、痛めた頭を摩りながら、窓の外を見るが、何も見えない。いや、これは煙だ。そう脳が認識した瞬間、全身を強烈な衝撃に襲われる。
鼓膜が破れんばかりの轟音が耳に直撃し、脳への直接的な衝撃が続けて襲う。頭の中に音という音が押し寄せ、脳が処理を放棄する。一切の音が聞こえなくなった。
ゆっくり目を開けて周囲の様子を確認する。今まさに、自分の席の窓が目の前で割れた。欠片が外へと一瞬で吹き飛んでいく。鉄臭い血の匂いと、頭から生暖かい何が顔を伝って流れ落ちていく。いつの間に負ったのだろうか?
ハハッ。でも、そんなことは今更どうでも良いか!
私は、薄れゆく意識の中で理解した。本当に死ぬんだと。
でも、これで私は・・・・・自由だ。
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