イシュタムの祝福

石瀬妃嘉里

文字の大きさ
上 下
5 / 14
第三章

自殺の女神と首吊りゲーム               (ルール説明 ▶ 一回戦)

しおりを挟む

※※※

 再び【祝福の間】の扉が開かれた瞬間、私は目の前の光景が信じられなかった。
 私達が先程この部屋を出た時、人数分のパイプ椅子が並べられていた筈だ。だが、今やそれらは撤去され、代わりに怪しげな装置が設置されている。私は、その装置をよく観察してみた。
 太い、横向きの棒と、それを支える二本の柱。そして、それらを下側で支える、がっちりとした台が。高さは恐らく二メートル前後、幅は人一人分より少し長めといったくらいのそれ。
 パッと見た感じでは、ぶら下がり健康器に似ているが、バーの中央部に、リールのようなものが取り付けられている。
 そのリールからは、かなり頑丈そうなロープが垂れ下がっていた。先の方では輪を作り、空中で僅かに揺れている。……まさか、これは。

「……絞首台?」

 嫌な予感がした私は、思わずそう呟く。間違いない。絶対にそうだ。この輪っか付きロープは、ドラマとかでたまに見かける、追い詰められた人が通すアレそのものだった。その瞬間、私はハッとする。もしかしてコレ、今からやるゲームに……?
 予想外の代物の登場に唖然としていると、何処からともなく黒ローブ集団が現れ、私達八人を取り囲んでしまう。

「え、ちょ、ちょっと待って……!」

 抵抗する間はなかった。動揺する私達を余所に、補佐達は軍隊の如く動き、あっという間に禍々しい装置に繋いでしまう。何て無駄の無い連携プレー……。おそらく彼らは特殊な訓練を受けているに違いない。などとボケている場合ではなかった。

「何これ、……外れない」
「ちょっと何これ! 外してッ!!」

 私の左隣から、ユーイチさんの泣きそうな声が。右隣からはゆかりん✩ちゃんの怒鳴り声が、それぞれ飛び込んで来る。今、どういう位置関係なのだろう。
 周りを見回したいが、首には例のロープがかけられているため、上手く身体を動かせなかった。自分の置かれている状況が把握出来ない事が、より何が起きるか判らない恐怖を助長させる。

『お久しぶりですねェ、皆様方ァ。最期の現世は楽しめましたでしょうか?』

 聞き覚えのある声がして、思わず上を見ると、先程と同様、二つのテレビの右側の方に、アカリが映っていた。先程までの騒がしいさとは違い、妙に粛々とした様子だ。

『これから皆様には、無事に楽園へと導かれる為の儀式としてのゲーム、“イシュタムの祝福”に挑んで頂きます』
「……“イシュタムの祝福”?」

 全く、聞いた事のないゲームだ。そもそも、イシュタムって何?
 首を捻る私の疑問に答えるように、アカリの声が続ける。

『まずは、こちらをごらァん下さァい!』

 何か、こんな感じのギャグあったな、と思う間もなく突然、アカリを映している方とは逆、つまり左側のテレビ画面がき、落書きのような絵が映る。あれは、女性だろうか。何か、首に紐のような物を引っかけているように見えるが、あれは、もしかして首を吊っている……?

『こちらは、自殺を司るマヤ神話の偉大なる女神、イシュタム様にございます。イシュタム様は、自殺に救いを求める皆様方を祝福し、楽園へと導いて下さるのです。ワタクシは、“ヤシュチェの木陰”の管理人であり、イシュタム様に仕える巫女なのでございます』

 アカリの説明に、私は素直に感心する。自殺を司る女神。そんな神様が存在するなんて、初めて聞いた。世界の神話なんて、せいぜいギリシャ神話くらいしか知らなかった私には、新鮮に写った。
 いや、もしかしたら、自殺にもっともらしい理由を付ける為にアカリが作った妄想の神様かもしれないけれど。

『イシュタム様が楽園へ導くのは、聖職者や戦死者、生贄にされた者やお産で死んだ女性、そして、首を吊って死んだ者に限定されます。つまりィ、イシュタム様より祝福して頂く為にはァ、イシュタム様の流儀にのっとり、首吊り自殺をする必要があるのでございまァす! そしてェ、この、儀式としてのゲームに参加する事で、最期の瞬間まで楽しんで楽園へ行きましょう、というのがこのパーティの目的なのでございます!』

 アカリのその言葉を聞いた瞬間、さ、と血の気が引くのを感じた。途端、首にかかったロープの感触と匂いが、生々しいものになって行く。気の所為か、室内の空気も、ぐんと重くなったように思った。ただ楽しそうに説明するアカリの声だけが、沈黙の中に響き渡る。

『それでは、ルール説明と参りましょう。まずゥ、ワタクシが出題者として、出題する英単語を選び、その英単語の文字数を表すマスを画面に映します。皆様は解答者として、この英単語に入っていると思われるアルファベットを一つ答えて下さァい!』

 アカリが説明すると、突然パッ、と右の画面の映像が変わり、列を成したマスが映し出される。

 □□□□□□□

『今、映し出されておりますマスの数は、七。つまりィ、この場合は、七文字の英単語を答えて頂く事になりまァす!』

 成程。どうやらアカリは、実際に例題を出して説明するつもりらしい。その辺りは随分丁寧だな、と感心した。それにしても。この画面、というより状況。何処かで見たような気がする。

『例として、アルファベットを一つ。今回はひとまず、“N”と解答しましょう。この時、解答したアルファベットが英単語に含まれている場合は、そのアルファベットが入るマスすべてに、解答したアルファベットが入ります』

 アカリの説明の後、何処からか《ピンポーン》と、クイズ番組で正解した時に鳴るような音が鳴り、画面の一部が変化した。

 □□N□□N□

 この場合、アカリの解答したアルファベット、“N”は出題された英単語に含まれていた。だから、該当箇所すべてのマスに“N”が入った。そういう事なのだろう。

『そして……次は、“E”としましょうか』

 アカリの発言を受けてか、今度はクイズ番組お馴染み、誤答した時の《ブブーッ》というブザー音が鳴った。すると今度は、イシュタムを映していた左側のテレビ画面が変わり、その左端の方に短めの横線が書かれた。

『アルファベットが英単語に含まれていない場合、画面上に、線が一本書かれます。なお、この線は、英単語に含まれていないアルファベットを解答する度に、一画ずつ増えて行きます』

 アカリの説明の後、左側の画面には一画、また一画と線は増えて行く。そして出来上がったのは、馴染みのない五つのアルファベットの羅列だった。

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

8.

9.

10.

11.

12.

13.


「“I-X-T-A-B”?……何?」
『ごもっともな疑問ですよォシホ様。こちらは、イシュタム様のお名前のスペルでございます。こちらの画面にあります通り、一問につき、間違えられる解答は十三回。この時、十三回目に間違えられた方、すなわち、イシュタム様のお名前を完成させた方が、イシュタム様より祝福される権利を得られるのです。……このように』

 アカリがそう言った次の瞬間、女神の名前を映し出していた左側の画面が消え、別の物が映し出される。
 あれは、絞首台だ。人の代わりに、人形が繋がれている。どうやら、私達が今繋がれているのと、同じ物のようだ。
 すると突然、絞首台の下側、丁度人形の足元の床がガコン、と音を立てて開き、人形が消えた。落ちた、と認識した時、目の前に映るのは、開かれた床の穴を猛スピードで下がって行くロープだった。
 ロープは、まるで落ちた人形を追うようにどんどん穴へと吸い込まれて行ったが、ある時、ぴぃんと垂直に張ったままその場で停止する。
 ギシ、ギシ、と嫌な音を立てながらゆっくりと揺れるロープ。その光景を前に、私を含め、誰も言葉を発する事はない。ただ、食い入るように画面を見つめている。その感情は間違いなく、恐怖と驚愕だ。
 やがてロープは、キュルキュルキュル、と嫌な音を立てながら、徐々にリールによって巻き取られ、先に繋がれた人形を引っ張り上げて行く。その顔には、無感情な白い覆面のような物が被せられていた。
 ぶら、ぶら、と、重たそうに揺れる人形が、徐々にフェードアウトして画面から消えると、アカリは満足したように話を続ける。

『このように、イシュタム様より祝福される権利を得た方は、足元の床が抜け、首吊りになります。つまり、楽園行きが決定になるわけです。ちなみに、英単語を正解した場合は、その回のゲームは終了とし、次のゲームへと移ります。これを繰り返して行き、イシュタム様より祝福される権利を得て、楽園行きを目指しましょう、というシンプルなゲームでございます』

 そして、右側のテレビでは、私達の見ている間に空白のマスを埋め始め、やがて一つの英単語を表した。

 HANGING

 Hanging。意味は首吊り。この英単語が出た時点で、私は確信した。何となく感じていた既視感は、これだったのだ。
 間違いない。これは。このゲームは。

「ハングマン……?」

 左隣から、ユーイチさんの掠れた声が聞こえた。やはりそうか。
 このゲームのルールは、ほぼハングマンなのだ。一人が英単語を考え、もう一人がそれを当てるという所も、正しいアルファベットが、その英単語の当て嵌まるすべての場所に書き込まれる所も一致している。不正解の時に描かれるのは、首吊り男の絵だったと記憶しているが、その辺りは微々たる違いだろう。

(懐かしい。学生の時、英語の授業でやったな……)

 ふと青春時代を思い出し、ノスタルジーに浸りそうになったが、不意に、右隣から怒鳴り声が飛んで来て、我に返った。

「ちょっと待ってよ! まさか、自殺方法って首吊りなの⁉ こういう集団自殺って、薬とか、練炭とかで苦痛無く楽に死ねるモンなんじゃないの⁉」
『確かに、そういった方法があるのも事実ですよゆかりん✩様。しかし、我々の目的は、現世を捨てて、楽園に導かれる事でございます。その為には自殺、とくに首吊り自殺は名誉な死に方なのでございますよ!』
「はぁ⁉ 何それふざけんな‼」

 どうやらゆかりん✩ちゃんは、自殺方法が首吊りなのが納得出来ないらしい。右側の画面から“HANGING”の文字が消え、再び映ったアカリに対して、クレームをぶつけていた。まぁ、その気持ちは判る。
 ドラマとか漫画で見る首吊りは、安らかに眠ったような死体で描かれているが、実際は目玉は飛び出るわ、穴という穴から色々出るわ、という、とても美しいとは言いがたい状態となるらしい。
 しかも、窒息というものは、死ぬまでが苦しくてたまらないので、自殺方法としてはあまりオススメ出来るものではないのだという。ならば確かに、他の方法が良いと言えるのかもしれない。そもそも、自殺するなとは思うのが。
 だが、幾ら納得行かないとしても、それをゲーム進行者にぶつけるのは、止めた方が良いと思う。こういったデスゲームの説明中に、騒いで妨害する奴には、必ずと言って良いほどロクな事が起きない。アニメやゲームでありがちな展開だ。

「帰る! こんな苦しい死に方するとか聞いてないし。別のサイトでもっと楽な死に方するとこにする!」
『ルール説明はまだ途中ですよ、ゆかりん✩様』
「煩い! 女神だか何だか知らんけど、良く判んないただの首吊り女の祝福とか死ぬほどどーでも良い! そんなのより、もっと──」

 その先は、聞こえなかった。
 突然、ゆかりん✩ちゃんがびくりと痙攣したかと思うと、だらりと頭を垂れたままその場に座り込んでしまう。
 ふと何かの気配に気付き、そちらを見ると、補佐の一人が、細い筒状の物を口に密着させて立っていた。
 あの構え方、……もしかして、吹き矢か? という事は、ゆかりん✩ちゃんは、補佐に射抜かれたという事……?

『イシュタム様を侮辱する事は許しません』

 氷柱を思わせるような、冷たく鋭い声が凛と響く。有無を言わせぬ程に冷徹なそれは、全身の鳥肌を立たせるには、十分過ぎるほどの覇気があった。

『アナタには、イシュタム様から祝福される資格はありませんねェ。残念ですが、それ相応の死に方をして頂きますよォ』

 そう言ってアカリが手で何やら合図すると、すぐに何人かの補佐達が、未だ痙攣しているゆかりん✩ちゃんの周りに集まり、彼女ごと絞首台を押して運び出してしまった。見たところ、台の下にキャスターが格納されていたらしい。
 ゆかりん✩ちゃんが退場させられている間、アカリは始終ニコニコしていたが、目だけが笑っておらず、ただただ不気味だった。

『……申し訳ありません。少し邪魔が入ってしまいましたねェ。エー、と何処まで話しましたかねェ』
「待って待って! ナチュラルに話進めないで! ゆかりん✩ちゃんはどうなるの⁉」
『死にますよォ。首吊りで死ぬわけではないので、祝福はされませんがねェ』

 あっけらかんとそんな事を言われて、私は唖然としてしまった。
 たった今、人が一人死んだ? あんな一瞬で、呆気なく。
 それなのにアカリは、何事もなかったかのように、平然としているなんて。
 あまりに軽く、雑に扱われるゆかりん✩ちゃんの死に、私は動揺を隠せない。だが、そんな私の心境を置き去りにして、アカリは淡々と、ルール説明を続けて行く。

『禁止事項としては、イシュタム様を侮辱すること。他人、施設、備品に危害を加えること。施設から脱走することの三つになります。一つ目と二つ目は言わずもがなですが、三つ目は本ッ当に危ないのでお止め下さい』
「それは、……どういう事ですか?」

 言葉尻が不穏なのが気になったのだろう。アイコさんが恐る恐るといった様子でそう聞く。その点は私も引っかかったのだが、すぐにある事を思い出してはっとする。かくして、アカリの回答は、私の思った通りのものだった。

『実はこの施設、断崖絶壁に建っておりまして。窓から確認出来ますので、皆様はご存知かと思いますが、気を付けないと海に真っ逆さま、なんて事も起こり得ます。自ら死を選んだ皆様が、今更逃げるなんて愚行を犯すとは思えませんが、念の為という事で』

 Oh MyGod。
 心の中の欧米人が、思わず、天を仰ぎ見る。嫌な予感というものは良く当たるものだ。
 私の脳内に、先程窓から見た景色が鮮明に浮かび上がる。荒れ狂う海と足場の悪そうな岩場は、宛ら二時間ドラマのクライマックスのよう。あんな所から落っこちたら、間違い無くお陀仏! という説得力があった。
 まさに、絶体絶命だ。ゲームで間違え続けたら死ぬ。逆らう真似をしても死ぬ。逃げても死ぬ。つまり、ゲームで正解し続けるしかない。けれど、必ずしも正しく答えられる保証はないから、いずれ間違えて死ぬ。こんなの、無理ゲーじゃないか。

(いや! それでも、私は死ぬわけにはいかない。妹の失踪の真実を掴むまでは……!)

 そうだ。私だって危険を承知でここへ来た。覚悟はしていた筈だ。なら、ゲームで生き延びれば良いだけの事じゃないか。
 幸い、ハングマンは学生時代得意だったのだ。必勝法だって、今でも思い出せる。……よし、いける!
 自信を取り戻した私は、改めてアカリの説明に耳を傾けた。

『はい、ではー、以上でルール説明を終了致します。何か、質問等はございますでしょうかァ? ……無いという事ですのでェ、これから、ゲーム本番と参りましょう!! 』

 説明を終えたアカリが、指をパチンと鳴らす。すると、右側の画面からアカリの姿が消え、代わりに列を成したマスの映像を映し出す。

 □□□□□□

 マスの数は六。つまり六文字か。上手く同じアルファベットが重なればラッキーだが。流石にマスだけで判断するのは無理があった。

『ではでは~、順番は、お若い方から始めましょうか。それではクラゲ様、お願い致します!』

 突然名指しされたクラゲちゃんは、びくりと肩を震わせた。そして、おどおどしながら最初のアルファベットを口にする。

「え? えと、……え、“M”、で……」

 途端、《ブブーッ》とブザーが鳴り、クラゲちゃんはまたびくりと肩を震わせる。可哀想に。そして、左側の画面には“IXTABイシュタム”の頭文字である“I”の一画目が書き込まれた。つまり、正解の英単語に、“M”は含まれていないという事だ。

「ハァイ! ハズレでございますねェ。では次はUTA様、お答え下さい!」

 次に名指しされたUTAちゃんは、か細い声で「“R”……」と答えたが。

 《ブブーッ》

 間髪入れずに耳をつんざくブザー。外れだ。
 その次にヨシカゲ君が、強張った顔で「“S”」と答えるが、今度もまた《ブブーッ》とブザーが鳴る。これも外れ。あっという間に、“IXTAB”の“I”が完成してしまった。

「はい、次はシホ様ァ。お答え下さい!」

 そして訪れる、私の番。未だに正解が何かは判らないが、✕を回避しやすくする策は、あった。一呼吸吐くと、私はしっかりとした声で解答する。

「“I”」

 すると《ピンポーン》という正解音が室内に鳴り響く。よし、正解だ。私は心の内だけでガッツポーズした。
 これが、私の策だ。
 英語には“ETAOIN-SHRDLU”と呼ばれる、単語を構成する上で使用され易い文字の配列がある。故に、このような使用されやすい文字、特に母音(E・A・O・I・U)を優先的に解答することで、正解の確率を上げることが出来る、というものだった。
 基本中と言えば基本中の事だが、なかなか馬鹿には出来ない。外れを回避しやすいのは勿論、上手くいけば、一度の解答で複数枠が埋まる事もあるので、英単語を探る為のヒントにもなりやすいという、まさに一石二鳥というわけだ。
 正解出来たという事実にテンションが上がった私は、すぐに画面を見上げる。アルファベットを当てたのだから、提示されたマスの何処かが開いた筈だ。そして、それが答えのヒントになる以上、きちんと確認する必要がある。さぁ、開いたのは何処だ?

 □□I□□□□

 微妙。あまりにも、微妙だ。
 マスの埋まった結果を見て、私の盛り上がった気持ちは一瞬にしてしおしおに萎む事となった。
 当てたアルファベットは、先頭から三番目。せめて、先頭が開けば良かったのに。これ、後の人は推測出来るだろうか。正解の英単語が判らない以上は仕方ないとはいえ、やはり申し訳ないな、と思いつつ、私はちらりと左側を覗いた。
 瞬間、私は困惑する。ほんの少し見えたユーイチさんの口元が、弧を描いている事に。
 ゾッとした私は、思わず周囲をぐるりと見回した。私以外の参加者の、その表情。そこから感じ取れたのは、怯えと困惑、そして、期待。
 明らかに楽しそうにしている者もあれば、目に恐怖を称えながらも、何処か落ち着きないようにソワソワしている者もいる。まるで、遠足を待ち遠しく思う子供の如く。
 その時、私はハッとする。
 このゲーム、抗っているのは、私だけだという事に。
 漫画やアニメで良く見かける、こういった所謂デスゲームが発生した場合、参加者は生き延びる事を望む。だから、運命に抗うように足掻いて、何とかして死から逃れようとするものだ。
 けれど、このゲームの参加者は、私以外は皆、自殺志願者だ。前提として、自らの死を望んでいる。そもそもとして、首吊りになる事が狙いなのだ。
 だから彼らはきっと、誤答を繰り返す。本当に、答えが判らない時は勿論、判っている場合は尚更、ワザと間違えるだろう。楽園へ行ける権利を得る為に。
 つまり、どういう事かと言えば。

(デスゲームのつもりでいるのは、私だけって事……?)

 瞬時に、自分が今置かれている状況の危うさに気付いた。死に向かう前提のゲームで、生き延びる事を考えている私は、明らかなイレギュラーだ。もし、その事が周りに知られたら。
 多分、ただでは済まないだろう。つい先程運ばれていった、ゆかりん✩ちゃんの姿が頭を過る。それは、下手をすれば私も、簡単に抹殺されてしまう事を意味していた。
 これは非常にまずい。私は死ぬわけには行かないし、もう誰かが死ぬところなど見たくない。本当は、ゆかりん✩ちゃんにだって死んでほしくなかった。けれど、彼らを止めるすべはない。
 ならばせめて、私が正解を出し続けて、女神の名前の完成を遅らせるしかないとは思うが、それも長くは持たないだろう。私だって、万能なわけではない。問題の難易度によっては、間違える事もある。一人だけ頑張ったところで、いつかは限界が来るというわけだ。
 まさに、孤軍奮闘。始めから詰んでいる無謀な試みだ。それでも、それでも私は何とかしたいと思う。それは、私のエゴでしかないのだろうか……。
 心に渦巻く葛藤の苦しさに、思わず頭を抱えたくなるが、それでも、ゲームは進み、解答権はユーイチさんへと移る。指名された彼は息を呑むと、かなり挙動不審な様子で口を開く。

「えぁ⁉ と、……“D”」
《ブブーッ》

 答えてすぐ響くブザーが、誤答した事を告げたと同時に、ユーイチさんが「ヒェ」と小さく悲鳴を上げた。瞬時に、左側の画面の映像に、右に傾いた線が一本足される。
 さて、次はアイコさんの番だ。彼女は一度目を閉じて深呼吸すると、ゆっくり瞼を開いて答える。

「……“B”」
《ブブーッ》

 再び鳴るブザーが、アイコさんの解答を否定する。画面上で、“/”スラッシュのように足された線が交わり、“X”を形作った。
 首吊りまで確実に近付く状況に、私は内心で冷や汗が止まらない。だが、解答する以外に出来る事がない以上、私はただ、他の参加者の行動をやきもきしながら見守る事しか出来ないのだ。
 どんどん溜まるもやもやを処理出来ないままに迎えた、城ヶ崎さんの番。彼は、特に感情を見せる事無く、淡々とした様子で解答する。

「“F”」
《ブブーッ》

 空気を裂くようなブザーに、私は焦燥感の念に駆られた。城ヶ崎さんも外してしまい、短めの横線が“X”の右隣に追加される。まずい、この時点で、六文字中一文字しか開いていない。頼む。誰か、誰かマスを開けてくれ。偶然でも何でも良い。そろそろ正解しないと、本格的にやばい。だから誰か。
 殆ど進展もなく、ただ私の心だけを削って一周目が終了し、再びクラゲちゃんの番が来る。再び解答権を得た彼女は、最初より幾分落ち着いた様子で、しっかりと正面を見据えて答える。
 
「“L”」
《ブブーッ》

 結果は外れだ。横線から縦に線が伸び、“T”が完成した。女神の名前完成まで、残り二文字。後、何回までなら間違えられるのだろう。そんな簡単な暗算を行う余裕は、最早私には残されていなかった。
 ああどうしよう。どうしたら良い? 私は、私は誰にも死んでほしくないのに、現実はもう一直線に死亡ルートへと突き進んで行く。誰かマスを開けて。切実に……。

(せめて母音。母音で攻めてくれ。それならまだ正答率上がるから……!)

 そんな私の想いが通じたのか、UTAちゃんの二度目の番、彼女は「“U”」と答えた。おお、母音だ。上手く行けば、マスが開くかも。そう希望を持ったのだが。

《ブブーッ》

 高揚した気持ちは、すぐにブザーによって萎んだ。無情にも、“T”の右隣に“/”が並ぶ。まずいまずいまずい。このままだと、“IXTAB”完成は時間の問題だ。尻に火が付くどころか、既に燃えている状態まで来てしまっている。
 考えろ。せめて、問題の英単語が何か見当が付けば良いのだ。少ない情報量でも、何とか閃けば道は開ける筈だ。それ、降りて来い降りて来い降りて来い……。
 超常現象など信じた事もないくせに、こういう時だけは非現実的な事に頼るとは、自覚していなかっただけで、結構参っているのかもしれない。だが正直、藁にも縋りたいというのが現状なのだ。形振り構ってはいられない。
 さぁ、何とか答えを絞り出すぞ、と意気込んだ私の右側で、再び解答権を得たヨシカゲ君が静かに答えた。

「“T”」

 その瞬間、《ピンポーン》という待ち望んだ音が鳴った。やった。正解だ。期待に満ちた私の視線を受けて、右側の画面の映像から空のマスの一つが埋まる。

 □□I□□□T

 しかし、判明したアルファベットの位置は、推測のしにくい場所だった。よりによって、末尾。想像力を逞しくしたところで、せいぜい最後の読み方は“ト”かな、くらいしか言い様がない。何だこのゲーム、こんなに難しかったっけ?
 いや、冷静に考えたら、難しい筈だ。何故なら、正解のアルファベットの数は、今回の場合は七。対して、アルファベット全体の数は二十六。つまり、当て嵌まらないアルファベットは、十九個もあるという事なのだから。

(今のヨシカゲ君の解答で、十回目。内、当たったのは二つ。だから、……当てられる確率は、単純計算で十六分の五。つまり、十一個は外れ。だけど、お手付きが許されるのは三回だけ。全員生還を目指すには、とんでもない博打だ……)

 そして、ようやく訪れた私の番。さぁ、ここが踏ん張り所だ。残りお手付き回数を考えれば、なるべく、英単語の検討が付くような開け方をしないといけない。
 答えの英単語が判らない以上、ピンポイントに正解を当てるのは難しい。悔しいが、運に任せるしかない。ならばやはり、含まれている可能性の高い母音で攻めるべきか。

「“E”!」

 私は、覚悟を決め、画面に映るアカリをめ付けながら答える。そして結果は。

《ブブーッ》

 お前の負けだ、とばかりにブザーが鳴る。もう一つくらい母音が紛れているかもしれない、という考えのもとでの解答だったが、その目論見は呆気なく裏切られた。
 畜生。せっかく回って来た、貴重な解答権が。
 何せ、もう二週目だ。“IXTAB”完成までの、残り画数を考えると、もう一度私の番が回って来る可能性は、極めて低いだろう。“/”に一画足され、“∧”が出来るのを見ながら、私は悔しさのあまり下唇を噛み締める。
 けれど、ゲームは否応なしに進む。次は、ユーイチさんの番だ。

「え、えと、……わ、“Y”!」
《ブブーッ》

 結果は外れ。再び鳴るブザーと、さらに書き足される一画により、“A”が完成した。首吊りまで、後一文字だ。非常にまずい。たらり、と背中を伝う汗の感覚が、妙に実感を持って伝わって来る。今は夏だから仕方ないな、と冷房のガンガン効いている室内で独りちた。
 次は、アイコさんの番。ここから何とか、盛り返してほしい。そうしないと……死者が……。
 気を揉む私の二つ隣で、両手を組んだアイコさんが答える。

「け、“K”……!」

 直後、鳴り響くは《ピンポーン》という軽快な音。よし、アイコさん、グッジョブ! これで、手がかりが増える。と、喜ぶ私だったが、画面を確認して頭を抱えそうになる。

 K□I□□□T

(駄目だ! わっかんねぇぇ~~~‼)

 二文字目が開いていない事が、致命的だった。これは本当に、閃くしか打開方法がない気がして来た。けれど、そんな運任せな事は言っていられない。このままでは、誰かの首が吊られてしまう。しかし。

(後、三回のチャンスで、残り四文字開けるの……?)

 せめて、英単語が何か判れば、無謀でも後の順番の人に伝えられるかもしれない。なのに、その正解が思い付かない。ああクソ何故! 何故たった七文字の英単語が判らないんだ⁉ 既に、三文字も開いているのに何故‼
 心穏やかではない私を置き去りに、尚もゲームは進む。この先は本当に、大事なところだ。
 だがそれは、生きたい私だけでなく、死にたい彼らにとっても同じ筈だ。少しでも早く楽園へ行く為には、何としてでも、自分の番で女神の名を完成させたいだろうから。
 頼む。誰でも良い。正解してくれ。ヒントが増えれば私も動けるし、皆を延命させる事が出来る。
 私は祈る思いで解答者達を見守る。どうか、助かってほしい。死なないでほしい。そんな想いを込めながら。
 しかし、現実は残酷だった。

「では、“P”で」
《ブブーッ》

 城ヶ崎さんが、答えを外した。画面上に、縦線が書き加えられる。

「じぇ、“J”……?」
《ブブーッ》

 クラゲちゃんも、答えを外した。画面上には、更に曲線が書き加えられる。連続するブザーの音に続き、左側の画面に映る“IXTAP”の映像。ついに、女神の名を示す最後のアルファベット、“B”の完成まで、残り一画。もう、後がない状況となってしまった。次は、……UTAちゃんの番だ。
 もし、彼女が間違えてしまったら。そんな最悪な想像が頭を過った途端、絶望に胃がギュッと締め付けられるような感覚に陥る。
 起こってしまった、最悪のシチュエーション。けれど、私にはどうする事も出来ない。あくまでもUTAちゃん本人がどうにかするしかないのだ。

(UTAちゃん、大丈夫かな……)

 不安になった私は、ヨシカゲ君の右隣を確認しようと目線を向けかけたその時。
 UTAちゃんが、金切り声を上げた。
 意味不明な言葉を叫びながら、絞首台から逃れようと暴れ始める。その所為か、ガチャガチャと装置が立てる機械的な音がして、絞首台が今にも倒れそうなくらい揺れているのが、視界の端に映った。
 突然の奇行に、私は一瞬怯んでしまう。

「え……⁉ ちょっと……。UTAちゃん! 落ち着いて! 一回暴れるの止めて‼ 倒れると危ないから‼」

 私は、UTAちゃんを宥めようと声をかけるが、無駄だった。
 彼女は未だ要領を得ない事を口走り、髪を振り乱し、追い詰められたような必死の形相で、尚も暴れ続けている。宛ら、闘牛の牛だ。これは、良い状態ではない。

(これは、ゲームを中止すべきだ。 UTAちゃんがこんな状態じゃ、続行は無理に決まっている!)

 このままでは、UTAちゃんが暴れた拍子に怪我をしてしまうかもしれないし、下手したら、勢いのあまり舌を噛み切ってしまう可能性だってある。だから一度、彼女を落ち着かせなければ!
 私は、アカリにそう訴えようと口を開きかける。だが、言葉が音となる前に、アカリがとんでもない事をUTAちゃんに言う。

『何を、そんなに恐れる事がありましょうか?』
「え……?」
『首吊りで自ら命を断つ事は、イシュタム様から祝福される、名誉な事です。何故、そんな素晴らしい事を手放す事がありましょうか』

 己の常識の斜め上から切り込まれ、UTAちゃんはぴたりと叫ぶのを止める。けれどアカリは、彼女だけでなく、私達全員に聞かせるように『そもそも……』と話を続けた。

『皆様方は、自らの意思で現世を捨て、イシュタム様より祝福されるためにここに来た。故に、生きる事に何の未練もない。そういう事でございましょう?』

 その言葉は、ただただ純粋だった。
 アカリは、辛い現実を我慢して生きるくらいなら、全てを捨てて楽園を選ぶ方が断然良い筈だ、と説いている。それは、私達がここに来た時からこいつがずっと貫いているスタンスだ。
 けれどそれは、胡散臭い宗教的な奴らが語るものとはわけが違う。アカリは、そうする事が一番の幸せだと、本気で思っている。
 その瞬間、私には、このアカリという女が、急に宇宙人並に理解出来ない、不気味な存在にしか見えなくなった。
 静かなる狂気に私が絶句していると、不意に、騒がしかった筈の室内に、いつの間にか静寂が訪れていた。

「祝、福……?」

 ぽつりと呟くようなUTAちゃんの声が、微かながらも私の耳に届く。良かった。彼女は正気を取り戻したのか。
 そんなUTAちゃんに、アカリが優しく話しかける。見る者が見たら可愛らしく見える、子供のような表情で。

『そぉですよUTA様。首吊りで死ぬ事で、アナタは楽園に導かれます。首吊り自殺という、女神様も認めた、名誉ある死に方をもって』

 そこまで言うと、アカリは、くふくふと笑いながら続けた。

『確かに、死後の容姿を気にしてクレームを入れる方は沢山いらっしゃいます。しかし、この施設では、何も心配する事はございませんよ。首を吊った後、顔は仮面で隠されますし、貸し出している下着は特殊素材を使用している為、衣服が汚れる事は絶対にありません。ですから、死後の状態を気にする事など不要なのですよ!』

 この下着、そんなハイスペックアイテムだったのか!
 思わず私は叫びそうになったが、踏み止まった。それにしても、この場所は、死後のケアもきちんとしているのか。素直に感心してしまう。それは、UTAちゃんも同じらしく、目を見開いてアカリの映る画面を、食い入るように見つめている。

「本当? じゃあ、……首を吊っても、……うつくしくしねるの………?」
勿論もっちろんでございます! ですからァ、首吊り自殺を恐れる事はありません! イシュタム様は、そんな死に方を選んだ者達を称え、魂を楽園へと導いて下さるのですから‼』
「楽園に、導く……」
『そうです! 楽園に招かれればすべての欲望から開放され、永遠の安息を享受する事が出来ます。だから、死を恐れる事はありません! 恐ろしく感じるのは、ほんの一瞬の間でしかないのです‼』

 アカリの、ねっとりするような甘言を受けたUTAちゃんは、あれほど取り乱していたとは思えないほど従順に、アカリの熱弁に聞き入っていた。表情も恍惚としていて、まるで、催眠術にでもかけられたみたいだ。
 アカリは、彼女の心を絡め取るかのように、さらに優しく語りかける。

『辛かったのですよねェ、UTA様。アナタは、ネットの方でもワタクシに悩みをぶつけて下さいましたねェ。雑誌モデルとして注目を浴び始めた矢先、難病になられてしまったと』
「そ、……そうなんです。色々治療を受けたんですけど駄目で、……最近、余命宣告を受けました。残り三ヶ月。やっとモデル業で注目され始めて、これからって時なのに、……こんな、ドラマみたいな展開、いらなかった。悔しかったし、最期の最期まで諦めないで完治させてやる! ってつもりだったんです。でも、……治療費が莫大で。これ以上家族に迷惑をかけたくなくて、……終わりにしようと思ったんです」

 言葉が、出て来なかった。UTAちゃんの病気については知っていたが、改めて本人の口から聞く生々しさに衝撃が走る。
 冷静に考えれば、【晩餐の間】で見たメニューから、食事もまともに摂れるような身体ではなかったからなのかもしれないと、想像が付いた筈なのに。
 そして同時に、初めて彼女にあった時に感じた既視感に、ようやく気付く。彼女は、私がたまに買う雑誌によく出ているモデルの、「人見ひとみうた」だという事に。
 UTAちゃんの本音を受け、室内の空気が急に重苦しくなる。このまま、溺れてしまいそうだ。いつの間にか、何処からか啜り泣きが聞こえて来た。
 それでも、アカリは明るいテンションを変えずに、UTAちゃんを安心させるかの如く言葉をかけ続ける。

『その気持ちは良ゥく判りますよォ。大切な人に負担はかけたくないですものねェ』
「はい。でも、……土壇場で怖くなってしまって。どうせ、このまま生きていても、助からないのは判っているのに……」
『確かに! 人間、本能的に死を恐れてしまうものです! しかし、先程述べた通り、首吊りではそんな恐怖はほんの一瞬です。気が付いた時には、UTA様は楽園に辿り着いている事でしょう。さぁ、UTA様、一足先に、楽園へと参りましょう‼』

 アカリはそう言って、未だ左の画面に映る“IXTAP”の映像を指し示す。間違えたら即首吊りという、死の片道切符となる映像を。

「……そっか」

 なぁんにも怖がる事なんてなかったんだ。
 そう言って、顔をほころばせたUTAちゃんは、今、この瞬間、世界で一番綺麗に見えた。
 そして。

「……“X”」
《ブブーッ》

 UTAちゃんが解答した直後、けたたましく鳴り出したブザーが、室内を支配する。ハッとして左の画面に目を向ければ、“IXTAB”の五文字が点滅していた。女神の名は、完成してしまったのだ。
 同時に、ガンッ、と重量感のある音が私の右側から響く。驚いてそちらを向いた時、驚愕に目を見開いたヨシカゲ君の横顔が飛び込んで来た。

「UTAちゃ……」

 呼びかけた私の声は、中途半端に空気中に消える。ヨシカゲ君の向こう側、そこにいる筈のUTAちゃんの姿はもうなかった。
 彼女を繋いでいた筈のロープは、正方形にパッカリと開かれた床下の、墨汁を塗りたくったような闇の中へと、一直線向かうように飲み込まれて行く──。

「うああああああああ‼‼」

 驚愕の光景を前に、私の喉から声がほとばしる。恐れていた事態が起こってしまった事と、それを防げなかった事への絶望。その他、どうにもならない感情がないまぜになって放たれたそれは、ビリビリと私の頭の中に響き渡った。

『おめでとうございまァす! たった今、UTA様がイシュタム様に導かれ、楽園へと旅立たれました! 彼女はこれから、数多のしがらみから解放され、永遠の安息を得られる事でしょう‼ ちなみに、先程の答えは“K-N-I-G-H-T”……Knight(騎士)でした! 次は皆様が、楽園へ導かれますように!!』

 叫び声を上げたばかりの、かぁっと熱くなった私の耳に、能天気な声が届いた。目の前で起きた僅か数分の出来事に、私を含め誰もが言葉を発せない。画面から流れるアカリの楽しげな笑顔が、何処か滑稽に思えた。
 現実離れした、息苦しい空気の中、未だ床下の穴の奥で、UTAちゃんの命を奪ったロープの軋む、ギシ、ギシ、という音が、いつまでも耳に残っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

ファムファタールの函庭

石田空
ホラー
都市伝説「ファムファタールの函庭」。最近ネットでなにかと噂になっている館の噂だ。 男性七人に女性がひとり。全員に指令書が配られ、書かれた指令をクリアしないと出られないという。 そして重要なのは、女性の心を勝ち取らないと、どの指令もクリアできないということ。 そんな都市伝説を右から左に受け流していた今時女子高生の美羽は、彼氏の翔太と一緒に噂のファムファタールの函庭に閉じ込められた挙げ句、見せしめに翔太を殺されてしまう。 残された六人の見知らぬ男性と一緒に閉じ込められた美羽に課せられた指令は──ゲームの主催者からの刺客を探し出すこと。 誰が味方か。誰が敵か。 逃げ出すことは不可能、七日間以内に指令をクリアしなくては死亡。 美羽はファムファタールとなってゲームをコントロールできるのか、はたまた誰かに利用されてしまうのか。 ゲームスタート。 *サイトより転載になります。 *各種残酷描写、反社会描写があります。それらを増長推奨する意図は一切ございませんので、自己責任でお願いします。

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

都市伝説 短編集

春秋花壇
ホラー
都市伝説 深夜零時の路地裏で 誰かの影が囁いた 「聞こえるか、この街の秘密 夜にだけ開く扉の話を」 ネオンの海に沈む言葉 見えない手が地図を描く その先にある、無名の場所 地平線から漏れる青い光 ガードレールに佇む少女 彼女の笑顔は過去の夢 「帰れないよ」と唇が動き 風が答えをさらっていく 都市伝説、それは鏡 真実と嘘の境界線 求める者には近づき 信じる者を遠ざける ある者は言う、地下鉄の果て 終点に続く、無限の闇 ある者は聞く、廃墟の教会 鐘が鳴れば帰れぬ運命 けれども誰も確かめない 恐怖と興奮が交わる場所 都市が隠す、その深奥 謎こそが人を動かす鍵 そして今宵もまた一人 都市の声に耳を澄ませ 伝説を追い、影を探す 明日という希望を忘れながら 都市は眠らない、決して その心臓が鼓動を刻む 伝説は生き続ける 新たな話者を待ちながら

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「73」まで済。

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...