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少しでも時間を延ばせば、やっぱり来なくて良いという知らせが来ないかなどと往生際も悪く期待してしまうが、当然そんなことは無く国王のいる玉座の間の扉まで来てしまった。
「お父さま……、帰りたいです……」
父の袖を摘まんでついに泣き言を漏らしてしまったゼノンであるが、残念ながらその本心を父が悟ることは、女装の件を知らない以上あり得ない。
「大丈夫だ。陛下も儂もお前が不幸になるようなことは強要しない。だがずっとこのままでよいとはお前も思っていないだろう? お前の為にも、けりをつけた方が良い」
それは我が子を想う心からの言葉であった。違う、そうじゃないと思いつつも、父の愛情を考えると何も言えなくなってしまう。それが了承と取れたのだろう、両脇に控えていた近衛が父とゼノンの名を告げ、大きな両扉を開いた。せめて王子と会うことなく家に帰れますようにと強く強く願うゼノンであったが、玉座の方に視線を向けた瞬間にその願いは砕け散る。
玉座に座る国王の隣には、凛々しく美しいアトラス王子が立っていた。それも何故か、正装で。
「さぁ」
父に促されて、ゼノンはダラダラと冷や汗を流しながらも前に足を進め、王の前に臣下の礼をする。国王は穏やかに微笑むと二人に立つよう告げた。
「呼び出してすまんな。息子がどうしても二人を呼んでほしいと言ってきかないのだ。親バカと思われるかもしれんが、あまり我儘の言わぬ息子に頼み込まれては断れんでのう」
実際、今回の婚約破棄以外で王子が自らの私情を通そうとしたことはない。父がゼノンを守ろうとするように、国王も王子を第一に考えている。それは仕方のないことだろう。だがしかし、そんなことを考えていられるほどゼノンには余裕がなかった。
バクバクと心臓を鳴らし視線を彷徨わせているゼノンを他所に、王子は自らの父である国王に礼をする。
「お父さま……、帰りたいです……」
父の袖を摘まんでついに泣き言を漏らしてしまったゼノンであるが、残念ながらその本心を父が悟ることは、女装の件を知らない以上あり得ない。
「大丈夫だ。陛下も儂もお前が不幸になるようなことは強要しない。だがずっとこのままでよいとはお前も思っていないだろう? お前の為にも、けりをつけた方が良い」
それは我が子を想う心からの言葉であった。違う、そうじゃないと思いつつも、父の愛情を考えると何も言えなくなってしまう。それが了承と取れたのだろう、両脇に控えていた近衛が父とゼノンの名を告げ、大きな両扉を開いた。せめて王子と会うことなく家に帰れますようにと強く強く願うゼノンであったが、玉座の方に視線を向けた瞬間にその願いは砕け散る。
玉座に座る国王の隣には、凛々しく美しいアトラス王子が立っていた。それも何故か、正装で。
「さぁ」
父に促されて、ゼノンはダラダラと冷や汗を流しながらも前に足を進め、王の前に臣下の礼をする。国王は穏やかに微笑むと二人に立つよう告げた。
「呼び出してすまんな。息子がどうしても二人を呼んでほしいと言ってきかないのだ。親バカと思われるかもしれんが、あまり我儘の言わぬ息子に頼み込まれては断れんでのう」
実際、今回の婚約破棄以外で王子が自らの私情を通そうとしたことはない。父がゼノンを守ろうとするように、国王も王子を第一に考えている。それは仕方のないことだろう。だがしかし、そんなことを考えていられるほどゼノンには余裕がなかった。
バクバクと心臓を鳴らし視線を彷徨わせているゼノンを他所に、王子は自らの父である国王に礼をする。
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