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「ゼノンはいったいどうしたのだ?」
ゼノンの部屋の扉を少し開けて覗き込んでいた父は、同じように覗き込んでいた長兄とアナスタシアに思わず問いかけた。それもそうだろう。アナスタシアと出かけて行った仮面舞踏会から帰ってずっと、ゼノンは難しい顔をして黙り込みながら何か考え事をしていた。あのゼノンがコレクションを眺めることもせず、仕事はちゃんとこなしているようだが、暇さえあれば考え込み、家族が話しかけても聞こえていないらしく返事は返ってこない。まして婚約破棄を告げられたばかりだ。親兄妹としては心配でたまらないが、同じように覗き込むアナスタシアだけは少し違うようで、どこか微笑ましそうな視線を向けている。
またアナスタシアが何かをしたのだろうかと、父と長兄が顔を見合わせて首を傾げた時、足早に近づいてきた使用人の男が父と長兄に丁寧な礼をした。ちなみにアナスタシアはまだゼノンを観察中である。
「旦那様、陛下よりこちらが届きましてございます」
陛下という言葉に扉の向こうを覗き込んでいたアナスタシアを含め、皆の視線が男の持つ書簡に向けられる。そこには確かに国王しか用いることのできない紋章が押印されていた。
すぐに開封し中身を確認した父は首を傾げながら、何事かと視線を向けてくる子供たちに大丈夫だと告げる。
「陛下がお呼びだ」
そう言って父はノックもそこそこにゼノンの部屋へ入った。そしてポンとゼノンの肩を叩く。ピクンと肩を震わせ勢いよく振り返ったゼノンに、父は書簡を差し出し、そこにある紋章を見せた。
「陛下がお呼びだ。儂と共に城へ参るぞ」
「え……?」
父の言葉にポカンと口を開いたゼノンは慌てて書簡を見るが、そこには確かに国王の紋章がある。これを偽造するのは不可能で、国王からの呼び出しであることは確かなのだが、ゼノンは全力で拒否したかった。城には当然のことながら王子がいる。国王の話が何であるかはわからないが、うっかり王子と鉢合わせないとも限らない。あの日と違い暗闇でもなく仮面も無い自分を見てしまえば、流石に王子は想い人と顔が同じだと気づくだろう。なにせ女装した時は薄化粧だったのだ。元々の顔とほぼ変わりは無い。
「あ、あの……それは僕も行かないといけないのでしょうか? お父さまだけ行くのは……」
「無理だな。国王陛下直々に儂とゼノンで来いと仰られている。正式な謁見ではないのだからそのままの恰好で構わない。行くぞ」
ゼノンが嫌がっている事情など知るはずもない父は、にべもなくゼノンの逃げ道を完全に塞ぐと踵を返した。国王の命令とあれば行かざるを得ない。
どれほど嫌でも、恐ろしくても、勅命に背くは極刑だ。それもゼノンだけではなく、家族にも火の粉が降りかかるかもしれない。流石にそんな大切なものを秤にかけて行かないなどという選択は取れるはずもない。
ゼノンはまるで巨大な鉄球でも足に嵌められているかのような重さを覚えながら、ノロノロと父の背中を追いかけた。
ゼノンの部屋の扉を少し開けて覗き込んでいた父は、同じように覗き込んでいた長兄とアナスタシアに思わず問いかけた。それもそうだろう。アナスタシアと出かけて行った仮面舞踏会から帰ってずっと、ゼノンは難しい顔をして黙り込みながら何か考え事をしていた。あのゼノンがコレクションを眺めることもせず、仕事はちゃんとこなしているようだが、暇さえあれば考え込み、家族が話しかけても聞こえていないらしく返事は返ってこない。まして婚約破棄を告げられたばかりだ。親兄妹としては心配でたまらないが、同じように覗き込むアナスタシアだけは少し違うようで、どこか微笑ましそうな視線を向けている。
またアナスタシアが何かをしたのだろうかと、父と長兄が顔を見合わせて首を傾げた時、足早に近づいてきた使用人の男が父と長兄に丁寧な礼をした。ちなみにアナスタシアはまだゼノンを観察中である。
「旦那様、陛下よりこちらが届きましてございます」
陛下という言葉に扉の向こうを覗き込んでいたアナスタシアを含め、皆の視線が男の持つ書簡に向けられる。そこには確かに国王しか用いることのできない紋章が押印されていた。
すぐに開封し中身を確認した父は首を傾げながら、何事かと視線を向けてくる子供たちに大丈夫だと告げる。
「陛下がお呼びだ」
そう言って父はノックもそこそこにゼノンの部屋へ入った。そしてポンとゼノンの肩を叩く。ピクンと肩を震わせ勢いよく振り返ったゼノンに、父は書簡を差し出し、そこにある紋章を見せた。
「陛下がお呼びだ。儂と共に城へ参るぞ」
「え……?」
父の言葉にポカンと口を開いたゼノンは慌てて書簡を見るが、そこには確かに国王の紋章がある。これを偽造するのは不可能で、国王からの呼び出しであることは確かなのだが、ゼノンは全力で拒否したかった。城には当然のことながら王子がいる。国王の話が何であるかはわからないが、うっかり王子と鉢合わせないとも限らない。あの日と違い暗闇でもなく仮面も無い自分を見てしまえば、流石に王子は想い人と顔が同じだと気づくだろう。なにせ女装した時は薄化粧だったのだ。元々の顔とほぼ変わりは無い。
「あ、あの……それは僕も行かないといけないのでしょうか? お父さまだけ行くのは……」
「無理だな。国王陛下直々に儂とゼノンで来いと仰られている。正式な謁見ではないのだからそのままの恰好で構わない。行くぞ」
ゼノンが嫌がっている事情など知るはずもない父は、にべもなくゼノンの逃げ道を完全に塞ぐと踵を返した。国王の命令とあれば行かざるを得ない。
どれほど嫌でも、恐ろしくても、勅命に背くは極刑だ。それもゼノンだけではなく、家族にも火の粉が降りかかるかもしれない。流石にそんな大切なものを秤にかけて行かないなどという選択は取れるはずもない。
ゼノンはまるで巨大な鉄球でも足に嵌められているかのような重さを覚えながら、ノロノロと父の背中を追いかけた。
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