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仮面舞踏会の会場はそう離れたところではないとアナスタシアが言っていた通り、さほど馬車に揺られることなく到着した。初めての仮面舞踏会にドキドキしながら馬車を降りれば、そこはまさに異世界。
仮面舞踏会という名前の通り、着飾った皆が仮面をつけ、誰ともわからぬ人と談笑し、踊っている。幼いころ両親に連れて行ってもらった舞踏会とは違い、随分と人が多くザワザワと騒がしい。
「変わった舞踏会ですね」
気圧されたように立ち尽くすゼノンに、アナスタシアはクスクスと笑った。
「ここでは皆表の姿を捨てて楽しむのよ。誰かわかったとしても、わからないフリをするの。誰もかれもが解放されたようになるから、確かにちょっと騒がしいかもしれないけれどね」
さぁ、踊りましょう。とアナスタシアはゼノンの腕を引く。王子の婚約者としてダンスは男女どちらのステップもできるよう徹底的に叩き込まれた。あまり舞踏会に参加しないとはいえ、身体はちゃんと覚えている。ゼノンはアナスタシアの手を取り優雅に一礼をすると、美しいステップで踊りだした。
クルクル、クルクルと何曲か姉と共に踊り楽しんだゼノンであったが、慣れぬ騒がしさと熱気に少し疲れてくる。そんなゼノンを気遣ったアナスタシアは、彼を静かな庭に連れ出した。皆は舞踏会に夢中で、この庭には人ひとりいない。夜の静けさと闇に、ゼノンはホッと息をついた。
「大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくる姉に、ゼノンは笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。僕は少しここにいますから、姉さまは楽しんできてください」
ゼノンに何かあってはと家族は過保護になるが、ゼノンとてちゃんと魔法は使いこなせる。誰かがゼノンに害を加えようとしても退けるだけの力はあるつもりだ。だから、姉はせっかくの舞踏会なのだし楽しんできてほしいとゼノンは思う。そんなゼノンに、アナスタシアは少し迷ったのち、近くにあったベンチにゼノンを座らせた。
「じゃぁ、ここに座っていてね。何か飲み物を持ってきてあげるから。絶対にここにいるのよ? 何かあったら大声を出して。良いわね?」
幾度も念を押して言うアナスタシアにゼノンは頷く。それでも心配そうに何度も振り返りながら、アナスタシアは足早に中へ戻っていった。
仮面舞踏会という名前の通り、着飾った皆が仮面をつけ、誰ともわからぬ人と談笑し、踊っている。幼いころ両親に連れて行ってもらった舞踏会とは違い、随分と人が多くザワザワと騒がしい。
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「ここでは皆表の姿を捨てて楽しむのよ。誰かわかったとしても、わからないフリをするの。誰もかれもが解放されたようになるから、確かにちょっと騒がしいかもしれないけれどね」
さぁ、踊りましょう。とアナスタシアはゼノンの腕を引く。王子の婚約者としてダンスは男女どちらのステップもできるよう徹底的に叩き込まれた。あまり舞踏会に参加しないとはいえ、身体はちゃんと覚えている。ゼノンはアナスタシアの手を取り優雅に一礼をすると、美しいステップで踊りだした。
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「大丈夫?」
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