17 / 32
17
しおりを挟む
「良いじゃない。ちょっとくらい気分転換しに行きましょうよ」
自室でコレクションを眺めながら楽しそうにしているゼノンに、アナスタシアはこっちを見て、とゼノンの手にそっと触れる。そんな姉にゼノンはようやく手に持っていたブローチから視線を外し、アナスタシアを見た。
「でも、僕は舞踏会になんて行ったことないですからよくわかりません。それに、流石に仮面なんて持っていませんよ」
困ったように眉をへにょりと下げてゼノンは言う。そう、アナスタシアは今晩ある仮面舞踏会に一緒に行こうと数日前から熱心に誘っていたのだ。
「大丈夫よ。仮面舞踏会はそんな格式ばったものではないし、もう王子の婚約者じゃないんだから少しくらい楽しんだって良いじゃない。仮面はちゃんと私が用意しているわ。もうすぐ私も嫁いでいってしまうのだから、ちょっとくらい姉さまに付き合ってよ」
そう言われてしまうとゼノンも否とは言いづらい。少々強引なところはあるが、このすぐ上の姉のことは大好きなのだから。
「……わかりました」
渋々といったように承諾すれば、アナスタシアは少女のように喜んだ。そしてもう時間はあまりないのだからと、急いでゼノンの支度にとりかかる。
「楽しむだけなのだから、普通の正装で構わないわ。それから、髪はこのリボンでひとつにまとめて、あとは……」
バタバタと動き回り、アナスタシアは弟の着る衣装やリボンを選び始める。そんな姉には何を言っても無駄であるし、彼女は場にふさわしい装いを選んでくれるので、ゼノンも大人しく指定されたものを身につけ始めた。
「あとはこれね」
そう言って、支度を整えたゼノンの手に青のブレスレットを嵌める。そして顔の上半分を隠してしまう、軽く装飾の施された仮面をつけた。
「完璧だわ! さぁ、行きましょう!」
己もゼノンと似たような仮面をつけて、アナスタシアは早く早くとゼノンを引っ張った。そんな姉に苦笑しながらも、ゼノンは大人しく従う。馬車に乗り込む二人を、長兄が見送りに出た。
「楽しんでおいで。でも、あまり遅くならないように」
心配性な長兄の言葉に頷き、馬車を走らせた。
自室でコレクションを眺めながら楽しそうにしているゼノンに、アナスタシアはこっちを見て、とゼノンの手にそっと触れる。そんな姉にゼノンはようやく手に持っていたブローチから視線を外し、アナスタシアを見た。
「でも、僕は舞踏会になんて行ったことないですからよくわかりません。それに、流石に仮面なんて持っていませんよ」
困ったように眉をへにょりと下げてゼノンは言う。そう、アナスタシアは今晩ある仮面舞踏会に一緒に行こうと数日前から熱心に誘っていたのだ。
「大丈夫よ。仮面舞踏会はそんな格式ばったものではないし、もう王子の婚約者じゃないんだから少しくらい楽しんだって良いじゃない。仮面はちゃんと私が用意しているわ。もうすぐ私も嫁いでいってしまうのだから、ちょっとくらい姉さまに付き合ってよ」
そう言われてしまうとゼノンも否とは言いづらい。少々強引なところはあるが、このすぐ上の姉のことは大好きなのだから。
「……わかりました」
渋々といったように承諾すれば、アナスタシアは少女のように喜んだ。そしてもう時間はあまりないのだからと、急いでゼノンの支度にとりかかる。
「楽しむだけなのだから、普通の正装で構わないわ。それから、髪はこのリボンでひとつにまとめて、あとは……」
バタバタと動き回り、アナスタシアは弟の着る衣装やリボンを選び始める。そんな姉には何を言っても無駄であるし、彼女は場にふさわしい装いを選んでくれるので、ゼノンも大人しく指定されたものを身につけ始めた。
「あとはこれね」
そう言って、支度を整えたゼノンの手に青のブレスレットを嵌める。そして顔の上半分を隠してしまう、軽く装飾の施された仮面をつけた。
「完璧だわ! さぁ、行きましょう!」
己もゼノンと似たような仮面をつけて、アナスタシアは早く早くとゼノンを引っ張った。そんな姉に苦笑しながらも、ゼノンは大人しく従う。馬車に乗り込む二人を、長兄が見送りに出た。
「楽しんでおいで。でも、あまり遅くならないように」
心配性な長兄の言葉に頷き、馬車を走らせた。
87
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く
小葉石
BL
今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。
10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。
妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…
アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。
※亡国の皇子は華と剣を愛でる、
のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。
際どいシーンは*をつけてます。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる