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「良いじゃない。ちょっとくらい気分転換しに行きましょうよ」
自室でコレクションを眺めながら楽しそうにしているゼノンに、アナスタシアはこっちを見て、とゼノンの手にそっと触れる。そんな姉にゼノンはようやく手に持っていたブローチから視線を外し、アナスタシアを見た。
「でも、僕は舞踏会になんて行ったことないですからよくわかりません。それに、流石に仮面なんて持っていませんよ」
困ったように眉をへにょりと下げてゼノンは言う。そう、アナスタシアは今晩ある仮面舞踏会に一緒に行こうと数日前から熱心に誘っていたのだ。
「大丈夫よ。仮面舞踏会はそんな格式ばったものではないし、もう王子の婚約者じゃないんだから少しくらい楽しんだって良いじゃない。仮面はちゃんと私が用意しているわ。もうすぐ私も嫁いでいってしまうのだから、ちょっとくらい姉さまに付き合ってよ」
そう言われてしまうとゼノンも否とは言いづらい。少々強引なところはあるが、このすぐ上の姉のことは大好きなのだから。
「……わかりました」
渋々といったように承諾すれば、アナスタシアは少女のように喜んだ。そしてもう時間はあまりないのだからと、急いでゼノンの支度にとりかかる。
「楽しむだけなのだから、普通の正装で構わないわ。それから、髪はこのリボンでひとつにまとめて、あとは……」
バタバタと動き回り、アナスタシアは弟の着る衣装やリボンを選び始める。そんな姉には何を言っても無駄であるし、彼女は場にふさわしい装いを選んでくれるので、ゼノンも大人しく指定されたものを身につけ始めた。
「あとはこれね」
そう言って、支度を整えたゼノンの手に青のブレスレットを嵌める。そして顔の上半分を隠してしまう、軽く装飾の施された仮面をつけた。
「完璧だわ! さぁ、行きましょう!」
己もゼノンと似たような仮面をつけて、アナスタシアは早く早くとゼノンを引っ張った。そんな姉に苦笑しながらも、ゼノンは大人しく従う。馬車に乗り込む二人を、長兄が見送りに出た。
「楽しんでおいで。でも、あまり遅くならないように」
心配性な長兄の言葉に頷き、馬車を走らせた。
自室でコレクションを眺めながら楽しそうにしているゼノンに、アナスタシアはこっちを見て、とゼノンの手にそっと触れる。そんな姉にゼノンはようやく手に持っていたブローチから視線を外し、アナスタシアを見た。
「でも、僕は舞踏会になんて行ったことないですからよくわかりません。それに、流石に仮面なんて持っていませんよ」
困ったように眉をへにょりと下げてゼノンは言う。そう、アナスタシアは今晩ある仮面舞踏会に一緒に行こうと数日前から熱心に誘っていたのだ。
「大丈夫よ。仮面舞踏会はそんな格式ばったものではないし、もう王子の婚約者じゃないんだから少しくらい楽しんだって良いじゃない。仮面はちゃんと私が用意しているわ。もうすぐ私も嫁いでいってしまうのだから、ちょっとくらい姉さまに付き合ってよ」
そう言われてしまうとゼノンも否とは言いづらい。少々強引なところはあるが、このすぐ上の姉のことは大好きなのだから。
「……わかりました」
渋々といったように承諾すれば、アナスタシアは少女のように喜んだ。そしてもう時間はあまりないのだからと、急いでゼノンの支度にとりかかる。
「楽しむだけなのだから、普通の正装で構わないわ。それから、髪はこのリボンでひとつにまとめて、あとは……」
バタバタと動き回り、アナスタシアは弟の着る衣装やリボンを選び始める。そんな姉には何を言っても無駄であるし、彼女は場にふさわしい装いを選んでくれるので、ゼノンも大人しく指定されたものを身につけ始めた。
「あとはこれね」
そう言って、支度を整えたゼノンの手に青のブレスレットを嵌める。そして顔の上半分を隠してしまう、軽く装飾の施された仮面をつけた。
「完璧だわ! さぁ、行きましょう!」
己もゼノンと似たような仮面をつけて、アナスタシアは早く早くとゼノンを引っ張った。そんな姉に苦笑しながらも、ゼノンは大人しく従う。馬車に乗り込む二人を、長兄が見送りに出た。
「楽しんでおいで。でも、あまり遅くならないように」
心配性な長兄の言葉に頷き、馬車を走らせた。
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