*太陽と月の婚約破棄騒動*『王子、残念ながらそれ僕です!!』

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
9 / 32

しおりを挟む
 立ち上がり少女の手を取って、ゼノンは店の一角に案内する。そこには可愛らしいハンカチや小さなポーチが飾られていた。残念ながら少女の所持金では光ものを買うことはできないが、このハンカチやポーチも十分に可愛らしい。それにちゃんとこの店のロゴも小さくではあるが刺繍されている。母への贈り物にはもってこいだろう。少女もそう思ったのか、瞳を輝かせてそれらを見つめていた。そして悩みに悩み、桃色の可愛らしいポーチを指さし、これにすると告げる。ゼノンはひとつ頷いて店員を呼んだ。少女がポーチを買うことを告げると、店員は困惑しながらもケースからポーチを取り出す。少女は強く握りしめていた布袋を差し出した。その中身を見た瞬間、店員が固まってしまう。
「あ、あの……、申し訳ございませんが、その……」
 困惑した顔をし歯切れの悪い店員に首を傾げ、ゼノンもその布袋をのぞき込む。そこには貴族はめったに見ないであろう最小単価のコインが大量に詰め込まれていた。おそらく、少女は本当に仕事を頑張り、母の為に金をかき集めたのだろう。だが、こういった店ではコインの枚数が多くなればなるほど嫌厭される。貴族が金貨で支払うことの多い店ならば尚更だろう。
 もしかして買えないのかと不安そうな顔をしている少女を安心させるように、ゼノンは微笑んで見せた。
 払えないのなら、払えるようにすればよいのだ。幸いにも金の計算さえできないほど残念な頭はしていない。
「こちらで両替しましょう。失礼」
 断って、店員から布袋を受け取る。そして少女にわかるようコインを数え始めた。
「……百三十六、百三十七。はい、これで金貨一枚。いち、に、さん……」
 手間のかかる作業ではあるが、ゼノンは嫌な顔ひとつせず手早く数えては手持ちの金貨や銀貨と交換する。そしてすべてを交換し終えると、その金貨や銀貨で支払いを済ませるよう店員に伝えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

処理中です...