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 事態を理解し眉間に皺を寄せた王子が一歩踏み出そうとしたことに気づくことなく、ゼノンはカツカツと靴音を鳴らして、怒りに顔を真っ赤にしている女性とボロボロに泣いている少女の元へ向かった。
「謝っていることですし、許してあげては?」
 女装していることも忘れて、ゼノンは女性に声をかける。しかしゼノンの声は元々中性的で、この緊迫感もあってか誰も疑問を抱くことはない。
 うっかり自分が素の声で話していることにも気づかず、ゼノンはしゃがみ込み、見上げるようにして少女に視線を向けた。背後で喚いている女性は完全無視である。
「そのお金でお買い物に来たの?」
 問いかければ、少女はしゃくりあげ声を出せないまでもコクコクと頷いた。
「そっか。さっきちょっと聞こえたんだけど、お母さまに何か買おうとしていたの?」
 少女は再びコクコクと頷く。そして縋るようにゼノンを見た。
「かあさッ……おたんじょうびでッ、ずっと、ここのお店見ててッ、買えないけど、好きだってッ言ってた……からッ。いっぱッ……お仕事、してッ、お金貯めた、のッ」
 ヒクッ、ヒクッとしゃくりあげながらも少女はゼノンに訴えた。大好きな母の誕生日に、母があこがれてやまないこの店の物を買ってあげたいのだと。そのために仕事をして、お金を必死に貯めたのだと。
「そっか。偉いね。きっとお母さま喜んでくれるね。じゃぁ、お母さまにどれを買ってあげるか、もう決めているの?」
 ハンカチで涙を拭ってやりながら問いかけたそれに少女はフルフルと首を横に振った。それもそうだろう。外から見えるガラスケースに飾られているものなどほんの少しだ。それだけを見ていたのなら、何が置いてあるかさえ把握してはいないだろう。
「そっか。じゃぁ、こっそりどれくらいお金持ってきたか教えて? 一緒に選ぼうか」
 耳に手を当てて小首を傾げれば、少女は戸惑いながらもおずおずとゼノンの耳元に顔を近づけ、小声で持ってきた金額を告げる。その金額にしては少女の持つ布袋は膨らみすぎではないか? と思いつつ、ゼノンは笑みを浮かべて頷いた。
「わかった。じゃぁおいで。そうだなぁ、このあたりとかは買えると思うよ」
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