*太陽と月の婚約破棄騒動*『王子、残念ながらそれ僕です!!』

十時(如月皐)

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 広大で美しい、トリュフォスという大国を知っているだろうか。様々な作物が実る肥沃な大地と、そのままでも飲むことができるほどに清らかな水に支えられたこの国は、他国の者が羨み移住したいと切望するほどに豊かで、活気に満ち溢れていた。貿易も盛んで、一歩町に出れば様々な物が安価で手に入り、常に人々の笑顔がそこにある。そんな地上の楽園を統治する王族たちは、まるで神話に出てくる神々のように国民から慕われていた。何故なら王族はまさしく国を照らす日輪であるからだ。
 この世界に生きる人々は大小の差はあれど皆が魔力を持っている。その中でも太陽から魔力を得る王族の力は絶大で、王が玉座にあるかぎり太陽は沈まないというのは、何も迷信などではない。そのため王族は何がなんでも血を絶やさぬよう婚姻をし、子を成さねばならないのだが、ここでひとつ、大きな問題が浮上する。
 太陽たる王族の伴侶は、月の力を強く受ける者でなければならないというものだ。
 同じ属性の者や王族の魔力に対してあまりに差のある者を伴侶としてしまえば、太陽の力が強すぎるために器が壊れてしまい産まれてくることすら叶わない。血が濃くなりすぎてはいけないという原理と同じようなものと言って良いだろう。
 太陽と相克である月の魔力を持つ者は男女のどちらであっても妊娠することが可能であり、産まれてくる子供の魔力は強大であると言われている。トリュフォスでは同性婚も認められており問題は無いかのように見えるのだが、そもそも月の力を受ける者が極端に少なく常に取り合い状態であるため、王族の婚姻は国としても頭を抱える大問題であった。
 しかし、現王の御代においてはさほど悩む必要は無かった。現王妃も次期国王たる王子の伴侶も幼少期に見つけることができ、早々に婚約を結んだのだ。幸運が重なったと言っても良いだろう。おかげで国の重鎮たちは少なくとも王子が結婚しお子を授かるまでは月の魔力を持つ者を探し回らなくて良い為、安心して己が仕事に打ち込んだ。
 そんなこの世界にとって当たり前のような流れが、後に騒動へ発展することなど、知らぬまま。

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