*太陽と月の婚約破棄騒動*『王子、残念ながらそれ僕です!!』

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
2 / 32

しおりを挟む
 広大で美しい、トリュフォスという大国を知っているだろうか。様々な作物が実る肥沃な大地と、そのままでも飲むことができるほどに清らかな水に支えられたこの国は、他国の者が羨み移住したいと切望するほどに豊かで、活気に満ち溢れていた。貿易も盛んで、一歩町に出れば様々な物が安価で手に入り、常に人々の笑顔がそこにある。そんな地上の楽園を統治する王族たちは、まるで神話に出てくる神々のように国民から慕われていた。何故なら王族はまさしく国を照らす日輪であるからだ。
 この世界に生きる人々は大小の差はあれど皆が魔力を持っている。その中でも太陽から魔力を得る王族の力は絶大で、王が玉座にあるかぎり太陽は沈まないというのは、何も迷信などではない。そのため王族は何がなんでも血を絶やさぬよう婚姻をし、子を成さねばならないのだが、ここでひとつ、大きな問題が浮上する。
 太陽たる王族の伴侶は、月の力を強く受ける者でなければならないというものだ。
 同じ属性の者や王族の魔力に対してあまりに差のある者を伴侶としてしまえば、太陽の力が強すぎるために器が壊れてしまい産まれてくることすら叶わない。血が濃くなりすぎてはいけないという原理と同じようなものと言って良いだろう。
 太陽と相克である月の魔力を持つ者は男女のどちらであっても妊娠することが可能であり、産まれてくる子供の魔力は強大であると言われている。トリュフォスでは同性婚も認められており問題は無いかのように見えるのだが、そもそも月の力を受ける者が極端に少なく常に取り合い状態であるため、王族の婚姻は国としても頭を抱える大問題であった。
 しかし、現王の御代においてはさほど悩む必要は無かった。現王妃も次期国王たる王子の伴侶も幼少期に見つけることができ、早々に婚約を結んだのだ。幸運が重なったと言っても良いだろう。おかげで国の重鎮たちは少なくとも王子が結婚しお子を授かるまでは月の魔力を持つ者を探し回らなくて良い為、安心して己が仕事に打ち込んだ。
 そんなこの世界にとって当たり前のような流れが、後に騒動へ発展することなど、知らぬまま。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

処理中です...