必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「流石は縁づくりの化け物、と言うべきか。だが、あの方たちの縁づくりはすべて真心と善意からだ。困っているから手を差し伸べただけと、そう言われることだろう。だからこそ多くの者があの方たちの言葉だけは聞こうと思う。今回芳次公が春風殿を頼ったということは、もはや将軍家よりも春風家の方が人を動かせるという事実に気づいているということになるが、私はそれがひどく恐ろしい。何かよからぬことが起こらねば良いが」
「よからぬこと? 何かあるのか?」
 不穏な言葉に萌黄の男が茶菓子を食べる手を止めて眉間に皺を寄せる。今にも側に置いてある刀をとりそうなほど張り詰めた空気に東の領主は小さく息をついて、ゆっくりと首を横に振った。
「特別何かあったわけではないし、耳にもしていない。だが、自らよりも影響力のある者など衛府からすれば厄介以外の何ものでもないだろう。権力者というものは目の上のたん瘤を放っておくほど寛容ではない。徹底的に叩き潰すのが常だ」
 この長く続いた衛府の歴史の中で、そのような事は多々あった。春風が生き残っていられたのは当主の立ち回りが上手く、何より衛府に恭順を誓っていたからに過ぎない。敵意は無いという証の為に近臣としては異常なほど私兵を減らし、どこかへ行く時も護衛を二人ほど連れて行くだけに止めた。当主も弥生も近臣であるものの高位を望まず、野心も見せない。そして常に人徳も力も、何もかもにおいて将軍家が上で、春風は下だと衛府に印象付けていた。だからこそ春風は粛清されることも咎めだてされることもなく、将軍の良き駒であれたのだが、流石の春風も今の動乱にそこまで手を回すほど余裕はなかったらしい。あれほど徹底して隠していた力も、伝手も、すべてを公にして使ってきている。将軍からの命令とはいえ、危険極まりない行為だ。
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