必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
670 / 714

668

しおりを挟む
 このような場所で三人が一心不乱に馬を駆けさせれば嫌でも人目につく。せっかく帝から希望とも呼べる文を預かったというのに、ここで命を落とすわけにはいかないと馬を一頭だけ用立てて連れながらも武衛に近い次の町までは歩くことにしたが、歩けど歩けど一向に進んでいないような気さえしてもどかしくてならない。
 それに、と弥生は優や紫呉に悟られぬよう小さく息をつく。
 武衛には当主たる父がいるので問題ないとはいえ、どうにも胸騒ぎが治まらない。
 もしも、もしも弥生が離れている間に何かが起こっていたら? 防ぎきることができず武衛が炎に包まれていたら?
 違う、大丈夫だと何度も己に言い聞かせるのに、嫌な思考ほど纏わりついて離れない。優と軽口を叩いても消えることのないそれに吞まれそうになった時、ポンと紫呉に背中を叩かれた。
「落ち着けよ。冷静じゃなければ動きも鈍くなる。それがお前の持論だろ?」
 それはいつだったか、確かに弥生が紫呉に言った言葉だった。
 弥生も刀はそれなりに使えるが、それでもやはり紫呉ほどの力を持つことはできなかった。だからこそ、冷静であらなければならないと。
「俺には力が武器だが、お前らにはその頭が何よりの武器だろ? なら、今は余計なことは考えるな。道をどう切り開くかだけを考えろ。それはお前にしかできないことだろう」
 人としての心を捨てろと言うのではない。今この時だけ、封印しろと紫呉は言った。武衛に帰り、すべての決着がつけば、その時はまた、人に戻ろうと。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

処理中です...