662 / 714
660
しおりを挟む
震えるほどに握りしめた己の手を紫呉は見つめる。刀や槍の手ほどきをしたけれど、生きる為の術を教えてやるべきだったのだと今更ながらに気づく。戦わなくて良い、迷わず逃げろ、自分の身を守れと。
「……月路、このことは、今は弥生に言うな。ここで衝撃を与えちまったら、弥生の命も消える。そうなったら俺たちが悲しむだけでは済まない。武衛に帰ったらいずれ知ることになるんだ。ここまできたらもう、いつ知ろうが遅すぎたなんてことはねぇよ。だから、武衛に帰ってことを成すまでは、隠しておけ」
流石の弥生であっても雪也達の死を知って僅かも動揺しないなどということはあり得ない。そして動揺して僅かな隙が生まれてしまえば、それが命取りになる。
「では、俺は武衛に戻ります」
戻ったところで、月路が護るように命じられた雪也達はいない。静かに瞼を閉じた月路に紫呉は視線を向けた。
「旦那様は、お前たちになんと命令してる?」
「屋敷で待機です。領主邸への放火が近臣によるものだと既に皆が知っているので、領主たちが衛府につめかけて将軍に説明を求めていますから近臣は動けませんし、放火を未遂に止めた春風家を杜環殿をはじめとして多くの領主たちが護っていますから、近臣ですら春風家には手出しできません。殺しはしなかったとはいえ、雪也一人に全滅させられたのを重く見たのか、過激派にも動きはありませんので。……皮肉なことに」
本当に、なんて皮肉なことだろうと紫呉は胸の内で嗤う。こんなにも喜べない吉報は初めてだ。
「……月路、このことは、今は弥生に言うな。ここで衝撃を与えちまったら、弥生の命も消える。そうなったら俺たちが悲しむだけでは済まない。武衛に帰ったらいずれ知ることになるんだ。ここまできたらもう、いつ知ろうが遅すぎたなんてことはねぇよ。だから、武衛に帰ってことを成すまでは、隠しておけ」
流石の弥生であっても雪也達の死を知って僅かも動揺しないなどということはあり得ない。そして動揺して僅かな隙が生まれてしまえば、それが命取りになる。
「では、俺は武衛に戻ります」
戻ったところで、月路が護るように命じられた雪也達はいない。静かに瞼を閉じた月路に紫呉は視線を向けた。
「旦那様は、お前たちになんと命令してる?」
「屋敷で待機です。領主邸への放火が近臣によるものだと既に皆が知っているので、領主たちが衛府につめかけて将軍に説明を求めていますから近臣は動けませんし、放火を未遂に止めた春風家を杜環殿をはじめとして多くの領主たちが護っていますから、近臣ですら春風家には手出しできません。殺しはしなかったとはいえ、雪也一人に全滅させられたのを重く見たのか、過激派にも動きはありませんので。……皮肉なことに」
本当に、なんて皮肉なことだろうと紫呉は胸の内で嗤う。こんなにも喜べない吉報は初めてだ。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる