必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 庵に一歩近づく度、嫌な予感が胸の内を蠢く。それを肯定するように、錆びた鉄の臭いが鼻をついた。
 この異様な臭いは男にも届いているはずなのに、彼は歩みを止めない。
(何か、あった……?)
 庵に近づくにつれ、見知った人々が恐る恐る身を縮こまらせながら佇んでいることに気づく。彼らは一様に顔を強張らせながら庵の方へ顔を向けていた。そんな彼らの間を迷うことなく男は進み、そして静まり返った庵へとたどり着いた。そこで湊は呆然と立ち尽くす。
 幾度となく通い、あるいは由弦と一緒に紫呉の稽古を受けていたその場所は赤黒く染まっていた。地の色がわからなくなるほど一面に、庵の壁や立てかけてある箒などにも赤黒いものが飛び散り、こびりついている。そこには誰もいないのに、凄惨たる光景があった。
「なん、で……。ゆきや、雪也たちは!?」
 あまりの光景に呆然としていた湊であったが、庵の住人である雪也達の顔を思い出しハッと血だまりを見つめていた顔を上げる。
 男がサクラを連れて来たということは、彼に保護を頼んだと言う雪也はここにいるはず。雪也がいるならば、周も必ず側にいるだろう。由弦もいるに違いない。もしかしたら、蒼も。
 そう思うと居てもたってもいられなくて、湊は男が止めるのも聞こえず血だまりさえも無視して庵に駆けだした。バンッ、と勢いよく扉を開く。あんなに大きな音がしたというのに、庵の中はシンと静まり返っていた。人の姿が見えなくて、キョロキョロと辺りを見渡す。そしていつも雪也達が寝ている布団の上に、彼らの姿を見つけた。
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