646 / 714
644 ※
しおりを挟む
「雪也さんは? 雪也さんも共に逃げましょう。大丈夫、我々が必ず味方になりますから!」
異常なほど穏やかな声音に兵衛と若衆の胸に焦燥感が駆け巡った。叫び、雪也の手を掴むが、その強さなど感じないとばかりに優しくポンポンと撫でられる。
「最後に、お願いします。サクラがどこかに、いるはずなんです。あの子は、由弦の言葉を、決して違えない。だから、由弦がいた近くに、絶対いるはずなんです。どうか、サクラを、紫呉様の、元へ……」
由弦がいない今、サクラは紫呉の側にいた方が幸せだろう。紫呉もきっと、サクラの存在が支えとなるはず。
だから、どうか……、と願い、雪也は己を掴む兵衛の手から腕を抜き、懐に手を伸ばした。
「……ごめんなさい」
それは誰に向けた言葉だったのだろう。兵衛や若衆が何かを言うよりも早く、雪也は薬包の中身を呷り、ゴクリと飲み干した。
「雪也さんッ、何をッ!」
兵衛の叫びが庵に響きわたる。ゴポリと口から赤黒いものが溢れ、雪也は周の隣に倒れ伏した。ドクドクと、あらゆる傷口から勢いを増して赤い血が流れ、布団を染め上げていく。
薬は、毒にもなる。こんなことの為に優は自らの知識を雪也に与えたわけではないだろう。優に怒られてしまうかもしれない、なんて、この状況にはふさわしくない事ばかりが脳裏を駆け巡る。
ごめんなさい……。
もう一度呟いたそれは吐息に隠れ、そしてゆっくりと雪也は疲れたように瞼を閉ざした。
異常なほど穏やかな声音に兵衛と若衆の胸に焦燥感が駆け巡った。叫び、雪也の手を掴むが、その強さなど感じないとばかりに優しくポンポンと撫でられる。
「最後に、お願いします。サクラがどこかに、いるはずなんです。あの子は、由弦の言葉を、決して違えない。だから、由弦がいた近くに、絶対いるはずなんです。どうか、サクラを、紫呉様の、元へ……」
由弦がいない今、サクラは紫呉の側にいた方が幸せだろう。紫呉もきっと、サクラの存在が支えとなるはず。
だから、どうか……、と願い、雪也は己を掴む兵衛の手から腕を抜き、懐に手を伸ばした。
「……ごめんなさい」
それは誰に向けた言葉だったのだろう。兵衛や若衆が何かを言うよりも早く、雪也は薬包の中身を呷り、ゴクリと飲み干した。
「雪也さんッ、何をッ!」
兵衛の叫びが庵に響きわたる。ゴポリと口から赤黒いものが溢れ、雪也は周の隣に倒れ伏した。ドクドクと、あらゆる傷口から勢いを増して赤い血が流れ、布団を染め上げていく。
薬は、毒にもなる。こんなことの為に優は自らの知識を雪也に与えたわけではないだろう。優に怒られてしまうかもしれない、なんて、この状況にはふさわしくない事ばかりが脳裏を駆け巡る。
ごめんなさい……。
もう一度呟いたそれは吐息に隠れ、そしてゆっくりと雪也は疲れたように瞼を閉ざした。
2
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる