必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「雪也さんは? 雪也さんも共に逃げましょう。大丈夫、我々が必ず味方になりますから!」
 異常なほど穏やかな声音に兵衛と若衆の胸に焦燥感が駆け巡った。叫び、雪也の手を掴むが、その強さなど感じないとばかりに優しくポンポンと撫でられる。
「最後に、お願いします。サクラがどこかに、いるはずなんです。あの子は、由弦の言葉を、決して違えない。だから、由弦がいた近くに、絶対いるはずなんです。どうか、サクラを、紫呉様の、元へ……」
 由弦がいない今、サクラは紫呉の側にいた方が幸せだろう。紫呉もきっと、サクラの存在が支えとなるはず。
 だから、どうか……、と願い、雪也は己を掴む兵衛の手から腕を抜き、懐に手を伸ばした。
「……ごめんなさい」
 それは誰に向けた言葉だったのだろう。兵衛や若衆が何かを言うよりも早く、雪也は薬包の中身を呷り、ゴクリと飲み干した。
「雪也さんッ、何をッ!」
 兵衛の叫びが庵に響きわたる。ゴポリと口から赤黒いものが溢れ、雪也は周の隣に倒れ伏した。ドクドクと、あらゆる傷口から勢いを増して赤い血が流れ、布団を染め上げていく。
 薬は、毒にもなる。こんなことの為に優は自らの知識を雪也に与えたわけではないだろう。優に怒られてしまうかもしれない、なんて、この状況にはふさわしくない事ばかりが脳裏を駆け巡る。

 ごめんなさい……。

 もう一度呟いたそれは吐息に隠れ、そしてゆっくりと雪也は疲れたように瞼を閉ざした。

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