必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「雪也さんッ! 無事ですか!?」
 周を抱き呆然としていれば、庵の扉が乱雑に開かれた。その声は常からは考えられないほどに焦っていて、足早に近づくと僅かも動かない雪也の肩を揺さぶった。
「雪也さん! 何があったんですッ」
 何が……。そんなこと、雪也が聞きたい。突然、本当に突然、弥生を敵視している者達が襲い掛かってきた。前々から過激な手段で未来を変えようとする者達はいたけれど、それでも雪也たちを害そうとする動きはわずかも無かったというのに。それとも、無かったと思うのは雪也の慢心だったのか。
「雪也さん! しっかり!」
 あまりに必死な声がボンヤリと聞こえて、ようやく雪也がゆっくりと視線を上げる。その先の存在を見て、小さく息をつくと瞼を閉じた。
「由弦……」
 そう、庵を訪ねてきた兵衛の腕の中には、煤と赤黒いものに汚れた由弦の姿があった。どうやら今日は兵衛だけではなく、店の若衆も連れて来たのだろう、そちらの腕には同じように煤と赤黒いものに汚れた蒼の姿がある。やはり、由弦は蒼と一緒にいたのか。
「雪也さん、ここは危険なようですから、うちの店に行きましょう。由弦さんたちのことも、ちゃんと……我々が」
 弔います、と言葉にすることはできなかった。だが兵衛が吞み込んだ言葉を、この状態で雪也が理解できないはずもない。
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