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「たとえそなたらに与えられなかったとしても、我々はこれからを生きる国民すべてに、その生きる術を、愛情を当たり前に享受できるよう今を変えるのだッ」
「そのためにすることが、この戦いだとでも?」
 この命を、無垢な周や由弦たちの命を奪うことだと?
「大事のためには多少の犠牲も致し方のないことッ」
 弥生の動きを止めなければ、その大事は成せない。雪也の命を奪わんと刀を構える男達は皆、そう信じて疑わない。疑わないからこそ、迷いなく刀を振り下ろしてくる。
「犠牲? 私が何をしたと? 弥生兄さまが、何をしたと? 大事の前に、仕方がないと切り捨てられるようなことなど、何一つとしてしていない!」
 弥生は多くを救いあげる人だ。けっして、仕方がないと誰かを切り捨てたりしない。そんな彼を〝大事〟の為に切り捨てるというのか。ただ穏やかに生きているだけの周と由弦を、何も衛府に関係していない二人を切り捨てるというのか。それが許される〝大事〟とは、いったい何であるのか。
「クソッ」
 大勢で囲い込み、縦横無尽に刀が踊っているというのに、彼らの誰一人として雪也に致命傷を負わせることができない。たとえその白い肌を傷つけようと雪也の動きを止めるには不十分で、だというのに雪也が握る刀によって仲間は腹に柄をめり込まれ、みね打ちで地に倒れ伏している。どうやら殺すのを躊躇っているようで、地に伏した仲間たちは皆ただ気を失っているだけのようだ。それでも戦力が徐々に削られていくのを感じて、男達は額に大粒の汗を浮かべた。何より、雪也はただ慈悲でもって彼らの命を守っているだけで、必要とあらば心臓を貫き、首を刎ねるだけの覚悟は既に彼の中にある。それが力の差のように思えて、雪也は既に血塗れであるというのに男達は命の危険を覚えジリッ、と後退った。
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