必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「由弦? サクラ?」
 庵について扉を開いた瞬間、周と雪也は彼らの名を呼びながらキョロキョロと視線を彷徨わせる。しかし予想に反して庵の中も薬草の庭もシンと静まり返っていて、人の影もサクラの小さな影も見えなかった。
「蒼のお店にも庵にもいないなんて……。いったいどこに行ったんだろう」
 途中で湊を見つけて、その場で長話でもしているのだろうか? だが帰り道も周と二人でまわりを気にしながら歩いてきたのだ。見落としたとは考えづらい。
「湊の家、行ったのかな」
 雪也たちは湊の家がどこにあるのか詳しい場所は知らないが、もしかしたら蒼は知っているのかもしれない。あるいは、湊を見つけて一緒に向かったか。
「そうだとしたら、ちょっと困ったことになったね。僕たちが帰っていることを知らないと、由弦はずっと待っているだろうし……。荷物を置いたらもう一度蒼のお店に行って、今度は待っていようか。そうしたら――ッ!」
 突然言葉を途切らせて僅かに顔を上げた雪也は、口元に人差し指を当てて静かにするよう周に伝えると、完璧に足音を消して扉をほんの僅かに開き、隙間から外を覗いた。急に訪れた緊迫感に周は身を固まらせる。静かに戻ってきた雪也は、そんな周に微笑んで頬を撫でた。
「大丈夫。少し外に〝お話〟しに行ってくるから、周はここで待っていて。何があっても扉を開けず、危険があれば、迷わず裏から逃げてね」
 あるいは庵の中で身を隠すように。そう告げて雪也は隠していた刀を手に取った。身を守れるようにと弥生が持たせたそれを雪也はよく手入れしていたが、それ以外で握られるなどそうそうなかった。その刀を雪也が握ったことで、周は心配するように雪也に視線を向けた。
 行かないで、と言えればよかった。けれど、ここでジッとしていても事態は動かないのだろう。最悪の場合は帰ってきた由弦が巻き込まれてしまうか。
 あらゆることを考える雪也が出るというのであれば、それがきっと最善なのだ。そう己に言い聞かせて、周は叫びそうになるのを必死に抑え込み、頷いた。
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