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 ここにいてはいけないとか、起こすのは後だとか、言いたいことは山ほどあったが迫りくる炎と充満する煙がそれを許さない。だがその短い一言でも蒼には通じたのだろう、彼も立ち上がって父親の反対側の腕を肩に回した。
 由弦たちが走って来た道は既に炎に塞がれ、通ることができない。どこか、どこかに道は無いのかッ。
 降り注ぐ炎の塊を避けながら辺りを見渡す。どこもかしこも炎に呑まれていて道など無いように思えたが、ほんの僅か、ほんの僅かに空気の流れを感じた。ハッとして視線を向ければ、そこには裏口だろうか、外につながる扉が開いているのが見えた。燃え盛る柱や調度品などで塞がれつつあるが、まだ人ひとりくらいならば通れるだろう。
「蒼ッ!」
 勢いよく指さした先に蒼も視線を向ける。わずかに見えるそこはいつ塞がれてもおかしくは無いが、それでも他に道は無い。一縷の望みを賭けるように頷き、二人は僅かに見える出口へと足を進めた。
 迫りくる炎は肌どころか目も喉も焼いていく。煙を吸い過ぎたのだろうか、意識が朦朧としてくるも足を止めることはできない。止まれば、待ち受けているのは死のみだ。
 肺を蝕むそれに咳き込みながら、なんとか先に蒼を外に出し、次いで蒼の父親を出す。唸るような音と共に屋敷が崩壊していく中、なんとか由弦も外へ転がり出た。
 父親を引きずるようにして、なんとか屋敷から離れる。裏口ゆえか人影は無いが、炎から離れられればそれで良いと、二人は脱力したように座り込んだ。
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