必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「親父さんは帰って来てねぇのか? 今、城下町の領主邸が次々と放火されてるらしいんだ。ほとんどはすぐに犯人を捕まえて消火されたらしいんだが、なんでか西にある屋敷だけが燃えてるんだ! あそこには今日、皆が納品に行ってるだろ!?」
「――ッッ!!」
 悲鳴すらも出ず、蒼が息を呑む。父が納品しに行ったのは商家であるが、あそこの主人は少しの手間と金をも惜しむ性格だ。納品に行けば、必ずと言って良いほど領主邸や近臣邸まで品を運ぶ手伝いをさせられる。父が出ていった時間を考えるに、今帰ってきていないのなら十中八九、品を運ぶ手伝いをしているに違いない。嫌な予感に蒼の背に冷や汗がつたった。
「まさか……」
 目を見開いてカタカタと震える蒼に、由弦も詳細はわからないものの何かが起こったことを察知する。ギュッとサクラを抱く手に力を籠め、蒼の前に立った。
「蒼、ここじゃ何があったかわかんねぇから、様子見に行こうぜ。もしかしたら親父さんもちゃんと避難してるけど、ビックリして様子をみてるだけかもしれねぇしよ。な? 俺とサクラも一緒に行くから」
 ここに居ては最悪の想像しかできない。ならば希望を持って様子を見に行った方が良いという由弦に、呆然としていた蒼はようやく顔を上げてぎこちなく頷くと、足をもつれさせながら奥へと走り、母親に店番を頼むと戻ってきた。そして由弦と顔を見合わせ、無言で頷く。どうか、と胸の内で祈りながら外へ飛び出した。
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