必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 帝に弥生の声は届いている。これは幼き日の思い出を持つ弥生にしかできないこと。だから、どうか、この切なる願いがその心を動かすように。
「主上、どうか今一度お考え下さいッ。こたびの件、本当に戦をしなければ世は変わらぬのでしょうかッ。武衛を火の海にし、民からすべてを奪い、衛府にいる者達を大砲の餌食にするしか、本当に術はないのでしょうかッ」
 あなたの心ひとつ、決意ひとつですべてが変わる。弥生はもちろん、芳次にもできない、他の誰にもできない、帝にしか成すことのできないものがあるのだ。
 どうか、あらゆる人々に慈悲を――。
 強く訴える弥生の瞳をジッと帝が見つめる。どれほどそうしていただろう、長い沈黙を破ったのは吐息のように小さな微笑みだった。
「幼き日より見守ってまいった姫宮やそなたを、地獄のような炎の中に放り込むことはできぬ。確かに、そなたの申す通りその心に貴賤は無いな」
 パチン、と音を立てて扇を閉じた帝はシュルリと衣擦れの音を響かせながら立ち上がり、少し待つように言って部屋を出ていった。突然のことに何が起こったのかと弥生は目を見開き、固まることしかできない。
 もしや、説得に失敗したのか? いや、それにしては帝の直前の言葉は随分と弥生の言葉に肯定的であったように思うのだが……。
 独り残された静かな部屋でグルグルと考え込むが、まったく答えは出ない。だからといって帝の許可なしに動き回ることも憚られて、弥生はまったく落ち着く様子のない心音を感じながら永遠とも思える時間をジッと耐えて帝を待った。
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