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「主上はご存知でございますか? 尊皇を声高に叫ぶ者達が今、武衛にある近臣の屋敷に火を放ち、混乱に乗じて衛府に大砲を打ち込もうと画策していることを」
「なに……?」
 眉間に皺を寄せた帝のそれが演技でなければ、この策は摂家が吹き込んだわけではないらしい。
「近臣の屋敷は隔離されているわけではなく、それは衛府も同じことです。近臣の屋敷が燃えれば、当然城下町の民家も燃えるでしょう。衛府に大砲が撃ち込まれ、戦となれば民が巻き込まれないなどということはあり得ません」
 放火は法に刻まれる大罪のひとつだ。それほどに罪が重いのは、ひとえに多くを巻き込み、そしてすべてを燃やし尽くしてしまうからである。例え命が助かったとしても、雨風をしのぐ場所も、食べるものも、衣服も、そして財産のすべてをも灰と化す。
 一度燃え上がった炎は、すぐに消すことなどできはしない。
「芳次公は主上を敬い、臣下としての礼を忘れたりはいたしません。時代が衛府を滅ぼすのであれば、それも定めと受け入れましょう。主上とて、芳次公を知らぬわけではありますまい。ですが、尊皇を叫ぶ者達は芳次公を知らず、ゆえに衛府は言葉の通じぬ高圧な輩と信じて疑わず、領主たちは自らの利益を見て動いているにすぎません。盲目になっている彼らに、衛府の言葉は通じません。ですが、華都ならば?」
 静姫宮や鶴頼、そして弥生たち春風親子を大切に思う心を帝が持っているのであれば、弥生が何を願っているのか、必ず通じるはず。
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