597 / 714
595
しおりを挟む
「主上はご存知でございますか? 尊皇を声高に叫ぶ者達が今、武衛にある近臣の屋敷に火を放ち、混乱に乗じて衛府に大砲を打ち込もうと画策していることを」
「なに……?」
眉間に皺を寄せた帝のそれが演技でなければ、この策は摂家が吹き込んだわけではないらしい。
「近臣の屋敷は隔離されているわけではなく、それは衛府も同じことです。近臣の屋敷が燃えれば、当然城下町の民家も燃えるでしょう。衛府に大砲が撃ち込まれ、戦となれば民が巻き込まれないなどということはあり得ません」
放火は法に刻まれる大罪のひとつだ。それほどに罪が重いのは、ひとえに多くを巻き込み、そしてすべてを燃やし尽くしてしまうからである。例え命が助かったとしても、雨風をしのぐ場所も、食べるものも、衣服も、そして財産のすべてをも灰と化す。
一度燃え上がった炎は、すぐに消すことなどできはしない。
「芳次公は主上を敬い、臣下としての礼を忘れたりはいたしません。時代が衛府を滅ぼすのであれば、それも定めと受け入れましょう。主上とて、芳次公を知らぬわけではありますまい。ですが、尊皇を叫ぶ者達は芳次公を知らず、ゆえに衛府は言葉の通じぬ高圧な輩と信じて疑わず、領主たちは自らの利益を見て動いているにすぎません。盲目になっている彼らに、衛府の言葉は通じません。ですが、華都ならば?」
静姫宮や鶴頼、そして弥生たち春風親子を大切に思う心を帝が持っているのであれば、弥生が何を願っているのか、必ず通じるはず。
「なに……?」
眉間に皺を寄せた帝のそれが演技でなければ、この策は摂家が吹き込んだわけではないらしい。
「近臣の屋敷は隔離されているわけではなく、それは衛府も同じことです。近臣の屋敷が燃えれば、当然城下町の民家も燃えるでしょう。衛府に大砲が撃ち込まれ、戦となれば民が巻き込まれないなどということはあり得ません」
放火は法に刻まれる大罪のひとつだ。それほどに罪が重いのは、ひとえに多くを巻き込み、そしてすべてを燃やし尽くしてしまうからである。例え命が助かったとしても、雨風をしのぐ場所も、食べるものも、衣服も、そして財産のすべてをも灰と化す。
一度燃え上がった炎は、すぐに消すことなどできはしない。
「芳次公は主上を敬い、臣下としての礼を忘れたりはいたしません。時代が衛府を滅ぼすのであれば、それも定めと受け入れましょう。主上とて、芳次公を知らぬわけではありますまい。ですが、尊皇を叫ぶ者達は芳次公を知らず、ゆえに衛府は言葉の通じぬ高圧な輩と信じて疑わず、領主たちは自らの利益を見て動いているにすぎません。盲目になっている彼らに、衛府の言葉は通じません。ですが、華都ならば?」
静姫宮や鶴頼、そして弥生たち春風親子を大切に思う心を帝が持っているのであれば、弥生が何を願っているのか、必ず通じるはず。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる