必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
595 / 714

593

しおりを挟む
「はい。主上、時の流れは変わらぬかもしれません。変えてはならぬものなのかもしれません。ですが、必ずしも彼らが定めた道を辿らねばならぬとは思わないのです。例え時代が変わろうと、人々の明日を変える必要はありません。主上、私は時代の流れに、〝衛府〟に慈悲を頂きたいとは思っておりません。ただひたすらに、人々の命に慈悲をいただきたい」
 近臣としては、弥生の考えは間違っているのかもしれない。近臣であるならば、衛府の者であるならば、将軍から文を託された使者ならば、時代の流れに最後まで逆らい、何を犠牲にしてでも衛府の存続を願い、命を賭して尽くすべきだろう。だが弥生は多くを秤にかけ、護るべきものを選び取った。もっとも、弥生にすべてを託した芳次も、弥生が他の近臣のように衛府そのものの存続に拘っているなど、露ほども期待していない。
「人々の命に慈悲を、か。だが弥生よ、時代が変わる時に犠牲はつきものであるということは歴史が証明しておる。まして此度の件は、帝や将軍の代替わりなどという生易しいものではない。なおさら、犠牲は避けられまいて」
 まして衛府はあらゆる意味で大きすぎる。その大きなものを倒し、世の流れを変えようと思うのならば戦は避けられないだろう。誰一人犠牲を出さない戦など無い。
 弥生の願うことは幼子の夢物語だ。それを美しいとは思うが、すべてを肯定してやるだけの歳でもなければ現状に余裕もない。仕方のない子だと帝は苦笑するが、弥生は決して夢物語を語ったわけではないと表情ひとつ変えることはなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

処理中です...