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「はい。主上、時の流れは変わらぬかもしれません。変えてはならぬものなのかもしれません。ですが、必ずしも彼らが定めた道を辿らねばならぬとは思わないのです。例え時代が変わろうと、人々の明日を変える必要はありません。主上、私は時代の流れに、〝衛府〟に慈悲を頂きたいとは思っておりません。ただひたすらに、人々の命に慈悲をいただきたい」
 近臣としては、弥生の考えは間違っているのかもしれない。近臣であるならば、衛府の者であるならば、将軍から文を託された使者ならば、時代の流れに最後まで逆らい、何を犠牲にしてでも衛府の存続を願い、命を賭して尽くすべきだろう。だが弥生は多くを秤にかけ、護るべきものを選び取った。もっとも、弥生にすべてを託した芳次も、弥生が他の近臣のように衛府そのものの存続に拘っているなど、露ほども期待していない。
「人々の命に慈悲を、か。だが弥生よ、時代が変わる時に犠牲はつきものであるということは歴史が証明しておる。まして此度の件は、帝や将軍の代替わりなどという生易しいものではない。なおさら、犠牲は避けられまいて」
 まして衛府はあらゆる意味で大きすぎる。その大きなものを倒し、世の流れを変えようと思うのならば戦は避けられないだろう。誰一人犠牲を出さない戦など無い。
 弥生の願うことは幼子の夢物語だ。それを美しいとは思うが、すべてを肯定してやるだけの歳でもなければ現状に余裕もない。仕方のない子だと帝は苦笑するが、弥生は決して夢物語を語ったわけではないと表情ひとつ変えることはなかった。
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