必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「時の流れを変えようとするは愚か者であろうよ。確かに、摂家の者達が動いておらぬとは申すまいが、それでもいま主に動いておるは衛府の元に生きる名も無き民たる若者たちと、衛府に忠誠を誓ったはずの領主であろう? ならば、もはや時代が衛府を必要としておらぬということよ。その流れに逆らおうとすれば余の配下もまた多くが犠牲となり、時代は華都すらも必要としなくなるであろう。大きすぎるすべてを犠牲にしてまで、時の流れに逆らい衛府を守るだけの理由がこちらには無い」
 時が衛府をいらぬと判じたのであれば、それに従うまでのこと。静姫宮さえ無事を確保できれば、華都が動くことは無い。
「主上が仰られていることに否は申しません。おそらく時代は衛府を葬り去る。近臣は信じぬ者もおりましょうが、静姫宮様や芳次公はそれをも受け入れられておられましょう。ですが、私はただ主上のお言葉に頷き、すべてを諦めるためにここに参ったわけではございません」
「では何のためにそなたはここに来た」
 パチン、と扇が鳴らされる。その音に弥生は深く頭を垂れた。
「主上の慈悲を頂くためです」
 そう、もうこの国に慈悲を与えることができるのは、尊きあなたしかいないのだ。
「慈悲、とな?」
 ゆっくりと、手をついたまま弥生は顔を上げる。その瞳に宿る光を見て、帝は目を細めた。
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