必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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(どうしようかな……)
 小さくため息をついて、ズルズルと力なく座り込む。庵に行けば雪也たちは優しく迎えてくれるとわかっているのに、どうしても足が動かなかった。そして思い知らされる。自分は蒼がいなければどこにも居場所を持つことができていなかったのだと。
(ま、わかってたけど)
 自分が蒼に依存しているだなんてこと、とっくに。
 胸の内から溢れて止まらないため息が次々と零れ落ちる。気づけば随分と時間が経っていたのだろう、ザワザワと沢山の声が聞こえて、余計に湊は動くことができなくなった。人通りのない裏道であるここから出れば、人々の目に自分の姿が映される。
〝衛府の力が弱まってる以上、あの金髪の子や由弦のつれてるサクラを見咎められたらどうなると思ってる!〟
 蒼の父の言葉がウワンウワンと耳の奥に響く。きっとそう思っているのは彼だけじゃない。では、いったいどれほどの人が?
 考えれば考えるほど怖くて、孤独で、湊は膝に顔を埋めて小さく丸まる。すべてから身を護るように身を縮める湊の足に、フニ、と何か柔らかいものが触れた。
「ぇ……?」
 フニフニ、フニフニと柔らかなものが足を押してきて、湊は不思議に思い顔を上げる。視線を向ければ、湊が顔を上げたことに気づいたのかサクラが舌を出しながら満面の笑みを浮かべた。どうやら足をフニフニしていたのはサクラの肉球らしい。
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