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「そんなのは所詮きれいごとだ。蒼、この町の人間がそんなに綺麗に見えるか? もしも何かあった時、町の皆が一致団結して彼らも俺たちも護ってくれるって? そんな甘い夢を信じているのはまだヨチヨチとしか歩けねぇ子供だけだ。皆、自分と家族の身と生活を守るのに精一杯で、他の奴を助ける余裕なんてどこにもないんだよ。俺らが過激派に睨まれて命を落とそうと店が木っ端みじんになろうと、周りは助けるどころか明日は我が身だ気をつけようって思って終わりだ。もう一度言うぞ。自分の身は自分で守るしかない。町の奴に期待するだけ無駄だ」
「けど――ッ」
蒼が何かを言い返してくれているが、何故だかぼやけて湊の耳には聞こえなくなる。蒼の声だけではない、人々の足音も、声も、何もかもが聞こえなくなった。無音の世界に己の吐き出すため息だけが響く。
わかってた。これが現実だって。
そっと、音もなく壁から離れ、湊は身を隠すように来た道を引き返した。蒼は一生懸命に湊を庇ってくれて、その心を疑うことなどしないが、それでも今は何でもない風を装って蒼の顔を見ることができそうにない。
きっと湊は無意識のうちに、蒼に甘えていたのだ。自分の家族が歪で、そこに居場所が無いから、寂しくないと達観――諦念を抱いていると思い込んでいたけれど、本当はずっと寂しくて無条件に愛情と居場所をくれる蒼に依存ともいえるほどに甘えてしまっていたのかもしれない。
「けど――ッ」
蒼が何かを言い返してくれているが、何故だかぼやけて湊の耳には聞こえなくなる。蒼の声だけではない、人々の足音も、声も、何もかもが聞こえなくなった。無音の世界に己の吐き出すため息だけが響く。
わかってた。これが現実だって。
そっと、音もなく壁から離れ、湊は身を隠すように来た道を引き返した。蒼は一生懸命に湊を庇ってくれて、その心を疑うことなどしないが、それでも今は何でもない風を装って蒼の顔を見ることができそうにない。
きっと湊は無意識のうちに、蒼に甘えていたのだ。自分の家族が歪で、そこに居場所が無いから、寂しくないと達観――諦念を抱いていると思い込んでいたけれど、本当はずっと寂しくて無条件に愛情と居場所をくれる蒼に依存ともいえるほどに甘えてしまっていたのかもしれない。
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