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「夕方にお伺いします。まずは火野さんの店に行きましょう。周さんたちとの約束ですから」
これから医者を呼んで大男の家に行ってと忙しいだろうに、兵衛は律儀に約束を守ろうとしてくれる。そのことに笑みを浮かべ雪也が礼を言った時、ふと耳に不穏な声が届いた。
〝……武衛……、火を……〟
〝ぃや……、砲……〟
何か、嫌な予感がする。兵衛の後に続きながらチラチラと後ろに視線を向けていた雪也は、食事処を出た瞬間に足を止めた。
「あの、お急ぎの所もうしわけないのですが、少し用を足してきても良いですか?」
もっと他の理由があったのではと雪也自身も思うが、それでも兵衛が付いてこず、雪也だけがこの場を離れる理由は他に思い浮かばなかった。
内心冷や汗を流し続ける雪也であったが、兵衛は特に疑問には思わなかったのだろう、急に連れて来てしまったのに配慮が欠けていたと謝り、ここで待つと言ってくれた。
「では、すぐに戻ってきますから」
踵を返し、足音を殺しながら先程声が聞こえた部屋まで急ぐ。紫呉に叩きこまれたことを思い出しながら、気配を殺し、息をひそめた。
これから医者を呼んで大男の家に行ってと忙しいだろうに、兵衛は律儀に約束を守ろうとしてくれる。そのことに笑みを浮かべ雪也が礼を言った時、ふと耳に不穏な声が届いた。
〝……武衛……、火を……〟
〝ぃや……、砲……〟
何か、嫌な予感がする。兵衛の後に続きながらチラチラと後ろに視線を向けていた雪也は、食事処を出た瞬間に足を止めた。
「あの、お急ぎの所もうしわけないのですが、少し用を足してきても良いですか?」
もっと他の理由があったのではと雪也自身も思うが、それでも兵衛が付いてこず、雪也だけがこの場を離れる理由は他に思い浮かばなかった。
内心冷や汗を流し続ける雪也であったが、兵衛は特に疑問には思わなかったのだろう、急に連れて来てしまったのに配慮が欠けていたと謝り、ここで待つと言ってくれた。
「では、すぐに戻ってきますから」
踵を返し、足音を殺しながら先程声が聞こえた部屋まで急ぐ。紫呉に叩きこまれたことを思い出しながら、気配を殺し、息をひそめた。
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