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「お腹が痛い状態で嫌かもしれませんが、無理にでも飲んでください」
顔を顰めた大男であったが、藁にも縋る気持ちだったのだろう。素直に湯のみを掴み、その水をゆっくりと飲み始める。大人しく水分を摂った彼に安堵した雪也は「少し失礼しますね」と声をかけて大男の袖をまくり、襟を広げて寛げた。
(何もない……)
人には合わない食材というものが存在する。それを食べてしまうと喉が詰まった感覚がして呼吸困難になったり、蚊に刺されたような腫れが身体中にブツブツと浮かび上がったりするのだが、男の腕にも腹や胸にもそれらしいものはなかった。
(やっぱり毒? でも、なんでこの人に……。それに、腹痛はあるみたいだけど吐いてはいないし……。あぁ、駄目だ。わからない。優様なら――)
その時、ふと雪也は思い出す。まだ春風の屋敷にいた時、紫呉が持ってきた刺身を見て優は確か――。
〝雪也、これは美味しいから食べたら良いけど、でも二切れ以上は食べたらいけないよ〟
そう、優は多くを食べたら駄目だと言っていた。この魚は美味だが、特殊なのだと。
「ひとつ、聞きたいのですが。朝か、あるいは昨日に何か食べましたか? 例えば、食べたことのない魚とか」
痛みに呻きながらも雪也の言葉は聞いていたのだろう、大男はピクリと肩を震わせた。どうやら心当たりはあるらしい。
顔を顰めた大男であったが、藁にも縋る気持ちだったのだろう。素直に湯のみを掴み、その水をゆっくりと飲み始める。大人しく水分を摂った彼に安堵した雪也は「少し失礼しますね」と声をかけて大男の袖をまくり、襟を広げて寛げた。
(何もない……)
人には合わない食材というものが存在する。それを食べてしまうと喉が詰まった感覚がして呼吸困難になったり、蚊に刺されたような腫れが身体中にブツブツと浮かび上がったりするのだが、男の腕にも腹や胸にもそれらしいものはなかった。
(やっぱり毒? でも、なんでこの人に……。それに、腹痛はあるみたいだけど吐いてはいないし……。あぁ、駄目だ。わからない。優様なら――)
その時、ふと雪也は思い出す。まだ春風の屋敷にいた時、紫呉が持ってきた刺身を見て優は確か――。
〝雪也、これは美味しいから食べたら良いけど、でも二切れ以上は食べたらいけないよ〟
そう、優は多くを食べたら駄目だと言っていた。この魚は美味だが、特殊なのだと。
「ひとつ、聞きたいのですが。朝か、あるいは昨日に何か食べましたか? 例えば、食べたことのない魚とか」
痛みに呻きながらも雪也の言葉は聞いていたのだろう、大男はピクリと肩を震わせた。どうやら心当たりはあるらしい。
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