必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 パッと見ただけで外国の血が流れているとわかる自分の姿を、排他的なこの国の人間が避けるのは常の事だ。自分はこの見た目で避けられているが、由弦も周も雪也も、それぞれの理由で人々の輪から弾かれているのを知っているだけに、己が特別可哀想だなどと思ったことは無かった。思ったことはなかったが、蒼の父がどこか警戒するように自分を見る度、そんな父親に遠慮なく強い口調で文句を言っている蒼の姿を見る度、口には出されない親子の絆を感じるような気がして、羨ましいというか、どこかこそばゆくて居心地が悪いというか、なぜか無意識に暇さえあれば遠くを見つめる己の母を重ねてしまって変な気持ちになる。
(この人は俺がどこへ行こうと、誰と仲良くしようと気にもしないんだろうね)
 今日も朝の身支度を終えてからボンヤリと窓の外を見つめる母の姿に小さくため息をついて、湊は台所に置いてあったキュウリを掴むと外へ出た。
 湊にとって父というものは霧がかった存在だ。記憶にはあるが、もう離れて随分経つからか、顔も声も思い出せない。ただ、父がいて、母がいて、頭を撫でられて、どこか楽しかった。そんな古い古い、記憶と呼べるかどうかもわからない朧げなそれに縋るだけの健気さも己には残っていなくて、生きているか死んでいるかも知らないが、とにかく父が姿を消してから母は子である己に関心を示さなくなったという現実だけを抱いた。
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