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「確かに、それは少し怪しいな。春風親子が衛府から距離をとっていたのは知っているが、近臣の暗殺が続いて将軍が助けを求めたか? 仮にそうだとして、その願いを無下にするような家でもない。衛府には前将軍の忘れ形見もいらっしゃる。忠誠厚かった春風ならそれだけの理由で動くだろうが……、問題はどこに行ったかだな」
 なにせ弥生が頼れる人物は数え切れぬほどに多い。峰藤の杜環は倒れて久しく、もはや彼の一存で峰藤を止めることはできないであろうから除外するとしても、たった一人減っただけだ。一人一人、可能性を潰していくことも現実的ではなく、もしできたとしてもその間に春風が衛府のための駒を進めるだろう。そうなってはこちらが後手に回ってしまう。
「やはり春風は厄介だな。敵に回すにも分が悪いし、衛府を潰すのが目的である限り我々の味方に引き入れることも不可能。何とかして弥生と、その側近だけでも潰せないものか」
 息子を失えば春風当主は激怒するかもしれないが、彼はもう息子ほどの力は残っていない。人は誰をも時には勝つことができない。それはあの春風当主とて同じだ。
 春風の中で一番の力と行動力を持つ弥生、そして頭の回る秋森 優と、春風の私兵を動かすことのできる夏川 紫呉。この三人の動きさえ止められれば勝機はある。だが、それはどうやって……。
 ジッと一点を見つめて考え込む光明に、浩二郎はただ無言で待つ。その時、襖の向こうで光明を呼ぶ声が聞こえた。
「若様、松中殿が内密にお会いしたいとお越しになっておりますが」
 その近臣の名に、光明は小さく笑って顔を上げた。
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