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「私は、今この時にあっても行く末を知ることができません。何が衛府のためで、何が民のためなのか。衛府のために兄である主上や、故郷の華都を切り捨てるのか。華都のために民を切り捨てるのか。民のために次期将軍である我が子を切り捨てるのか。どれもが正論のように聞こえて、それらのすべてを私はすべきなのかもしれませんが、私はどれをも選ぶことができませぬ。選ぶには、なにより情を切り捨てることができひんのです」
 ここにいると誓った。今も、茂秋と過ごしたこの城を離れる気はない。なにより静姫宮は未だ幼い鶴頼がいる。茂秋の忘れ形見である可愛い我が子は、長じれば将軍となるだろう。衛府が倒されるということは、我が子の命が危ぶまれるということ。衛府を倒さんとする彼らが鶴頼の命を見逃すなどということはないだろう。ならば静姫宮は母として我が子を守る為に戦わなければならない。わかってはいるが、それでも幼き日を共に過ごし、笑いあった兄を犠牲にすることを容易く決断することはできなかった。
「無理からぬことです。私も口では高説を垂れることができるやもしれませんが、ならば自分がその立場に立った時、何も迷わず即決できるのかと問われれば、間違っても頷くことはできませんから。――後悔しない道を行くべきです。その為にも大いに悩み、考えるべきです。ですが、悩む時間も考える時間もさほど長くはなく、わずかでも人間であるのならば後悔しない道もまた、ございません」
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