必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「やはり静姫宮様は聡明であられる。ならば、私が言を弄する必要は無いでしょう。……上様より、静姫宮様へ文をお預かりしております」
 こちらに、と弥生が差し出した文を受け取ることはせず、静姫宮はただ視線を下ろした。
「芳次殿が? あの生真面目なお人が弥生さんに使いを頼んだということは、もはや外は私の知るものではなくなっているのでしょう」
 なんと恐ろしいことか、と小さく息をついて静姫宮はようやく弥生から文を受け取った。カサリと乾いた音を響かせ、静かに視線を落とす。沈黙が流れ、そして静姫宮は顔を上げた。
「……想像していたよりも、ずいぶんと外は物騒になりましたなぁ。何が理由かなど政に関わらぬ私にはわからぬことですが、確かに、尊皇を叫び衛府の者を消そうとする者らが現れれば、摂家はもとより華都は今を逃すまいと勢いづくは必定」
 静姫宮は帝の妹だ。元々は華都の人間であるが、彼女の心は衛府に尽くし最期まで戦った茂秋の元にある。顔には出さないが、きっとその胸の内は複雑に揺れ動いていることだろう。
「それで、弥生さんは私を守ろうと?」
 なぜ芳次が静姫宮に文を書いたのか、なぜ弥生がそれを持ってきたのか、弥生の言葉にされなかった思惑すらも静姫宮はわかっているようだった。匂わせるように言う静姫宮に弥生は困ったように微笑んだ。
「そう、お約束いたしましたので。もちろん姫宮様のお気持ちを忘れたわけではございませんし、この城を守るに全力を捧げますが、それでも完全なる安全をお約束は、恥ずかしながらできないのです」
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