必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「随分と久しぶりに弥生さんのお顔を見たような気がします。お元気であらしゃいましたか?」
 茂秋の命令通り芳次が将軍位を継ぐ少し前より、父親と共に衛府から遠ざかった弥生の訪問に静姫宮は喜びを露わにした。弥生はそんな静姫宮の変わらぬ姿に安堵すると同時に、その身が淡い桃色ではなく青紫の衣に包まれていることに寂しさを覚える。どれほど気丈に振る舞おうと、笑みを見せようと、静姫宮の心が晴れ渡る日は今もまだ訪れていないのだ。
「はい、静姫宮様。御無沙汰をいたしました。姫宮様も、お変わりないようで」
 安堵いたしましたと言えば、静姫宮は扇で口元を隠しながらクスリクスリと笑った。
「外はえらく騒がしいようですが、良くも悪くもここは何も変わりません。この衛府が開かれてより変わらぬ昨日あり、今日があります。明日もそうやとは、誰にもわかりませんが」
 それでもこの衛府は明日も明後日も、永劫に続くと信じている。それゆえになんとも気持ちの悪い穏やかな光景が広がっているのだ。まるで隙なく劫火で包まれて、もうすぐそこまで炎が迫ってきているというのに、その中心で呑気に詩を詠んで微笑み合っているような、そんな異様さを静姫宮も感じ取っているようだった。
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