必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 至急登城せよ、との将軍直々の招集に、弥生は離れてさほど時の立っていない衛府に優と紫呉を連れてやって来た。控えの間に優と紫呉を残し、大広間に座して頭を垂れる。すぐに襖が開く音が静かに響いて、衣擦れの音と共に将軍が正面に座ったのがわかった。
「面を上げよ」
 茂秋よりは年嵩の、低い声が耳に届く。それがどうにも悲しくて思考が記憶の中の懐かしい人に沈み込みそうになるが、今は過去に浸っている場合ではないと弥生は頭を上げた。
 真っ直ぐに見つめる先、将軍しか座ることの許されないそこに芳次の姿がある。どこか疲れた様子に同情を禁じえなかった。
「急に呼び出してすまぬな。だが、そなたのことだ。呼び出した理由など既に知っていよう」
 弥生も含め、春風が隠居することに芳次は否を言わなかった。彼にとっても徳茂に忠誠を誓う春風は扱い辛く、退けるにはその存在感が強すぎた。そのため春風側から隠居をと言われた時はまさに渡りに船と思い、むしろ進んで許可を出したとも言える。だが今は、その大きすぎる彼らの力に縋るしかない。
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