必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 池の水が揺れる音さえも聞こえるのではないかと思うほど静寂に包まれた空間で、杜環はゆっくりと茶器を置くと正面に座る久保 光明を見た。
「その考えすべてを否定しようとは思わないが、賛同もできない。少なくとも、今の彼らを引き入れて御せるとは到底思えないのだ。峰藤でも、織戸築でも、他の領主でもできはすまい」
 穏やかな顔と口調に騙されがちではあるが、光明は決して穏健派ではない。激情を胸の内に隠しているだけで、静かに目的達成の手段を講じている。今もまた、彼は己の考えを推し進めるために峰藤の協力を求めてやって来たのだ。あちこちで衛府の役人や近臣を惨殺している若者たちを――国を憂い、未来を変えようと決起した若者たちを、衛府を倒すための兵として取り込めないか、と。
 しかし、杜環からすればその考えはあまりに甘く、また危険を伴うものだ。到底頷くことなどできない。
 光明は悪い人間ではない。むしろ純粋すぎるほど純粋に国を憂い、未来を夢見ている。だが彼は当主の末孫として生まれ、あらゆる大人から守り甘やかされてきたからだろうか、とにかく視野が狭く直情的だ。こうと決めたら梃子でも動かない頑固さで、他人の否定的な言葉を受け入れようとしない。それが嫌と言うほどわかっている杜環であったが、彼もまた峰藤を守り支える補佐官だ。彼の周りにいる大人のように、そのすべてに肯定を示し、良くないことがあれば目を覆ってやり、聞きたくないことは耳を塞いでやることはできない。
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