必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「愚問だ。我々が戦いの果てに掴むのは他国に怯える必要のない、正しい姿に生まれ変わった未来だ」
 浩二郎の瞳は爛々と輝いていて、紫呉の言うことなど考えすぎか、あるいは些末なものだと思っているのか、あまり響いているようには見えなかった。どうにか方向を変えてほしくて、少なくとも戦とはどれほど残酷なものかを直視してほしくて、普段はあまり難しく物事を考えたくないと避ける紫呉からすれば多すぎるほどの言葉を紡いだつもりであったが、それは浩二郎の中にある正義の在り方を考えるものにすらならなかったらしい。
「……そうか。ま、あんたがいつか俺の言ったことを思い知る日がこねぇことを願うよ。それがどんな未来であってもな」
 小さくため息をついて紫呉は踵を返す。自分の言葉が紫呉の心を動かしたとでも思ったのか、浩二郎がどこか満足げに笑っているのをチラと見てツキツキと痛む頭をそっと抑える。
 紫呉の勘が正しければ、浩二郎は刀を持って日が浅いのだろう。もしかしたら彼らの言う志の為に初めてそれを握ったのかもしれない。その鋭すぎる刃が作り出す惨状への恐怖よりも、それらが思い描く未来へ近づいた証だとでも思っているかのようだ。まるで血に酔って、作り出した光景が悲惨であればあるほど自らの正義に雄叫びをあげて喜ぶような、そんな狂気が浩二郎の瞳には見えた。そうであるのなら、紫呉が、あるいは紫呉よりも弁が立つであろう弥生や優が何を言ったところで浩二郎の耳には届かない。紫呉たちの言葉は、浩二郎たちにとって都合の悪い、見たくないものであるのだから。
 さて、この現状をどう説明しようかと頭を悩ませて、紫呉は弥生の元へ駆けた。

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