必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「……え?」
「今のって……」
 あまりに唐突なそれに、二人は思わず足を止めて互いに顔を見合わせた。
「……もしかして、湊のお腹が空きすぎて悲鳴あげた?」
「いや俺の腹から悲鳴聞こえたら、それはそれで怖くない?」
 前触れも何もなく響き渡ったそれに現実逃避をしそうになるが、どうやらそれにも無理があったようだ。
「それもそうだね~。声の大きさ的に、ちょっと距離はあるみたいだけど……」
「まぁ、少し遠回りしたら関わらずに庵に行けなくもないし……」
 関わりたくない。関わる必要が無い。そう二人とも己に言い聞かせているのに、視線は悲鳴が聞こえた方から離れなかった。周りにいた者達もキョロキョロと周りを見渡しながらも、悲鳴が聞こえた方へ足を向けている。しばらく無言でお互いを見つめていた二人であったが、やがて諦めたように揃って深くため息をついた。
「何かあったらすぐに逃げられるように、道は確認してからだね」
「確かに、退路は確保してた方が良いか。命最優先で、だよね? 蒼」
「もちろん、我が身は自分で守らないと」
 流石に近くの警部所から役人が駆けつけているだろうが、この混沌とした時代に生きるなら、誰かが守ってくれるなどという甘えた考えは捨てるべきだろう。蒼たちを含め、多くの者達が悲鳴の場に足を向けるのは、ただの野次馬根性というよりは身の安全を少しでも確かなものにするために多くの情報を得たいという本能ゆえなのだから。
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