必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 華都の町には毎日死体が転がっている。そんな噂が城下町にも聞こえはじめ、店番をしていた蒼は静かに眉根を寄せた。
 彼らの言葉通り弥生達はずっと武衛の春風屋敷におり、今まで来れなかった分を埋めんとするかのように頻繁に庵へ顔を出している。庵の皆としては楽しく穏やかな日々を過ごしているが、世間は日がたつごとに物騒な話をよく聞くようになった。
「蒼、どうかした?」
 いつもニコニコと笑みを絶やさない蒼が眉間に皺を寄せているのが珍しいのか、湊が顔を覗き込みながら人差し指でグリグリと皺を伸ばすように蒼の額を撫でた。それにようやく湊が近づいていたことに気づいて、蒼は思わずビクリと肩を跳ねさせる。
「あ、ごめんごめん。何でもないよ~。そろそろ庵に行く時間だよね? ちょっと詰めるの手伝って~」
 蒼の耳に入ってきているものを、近臣たる弥生が知らないはずはない。その彼が何も言わないということは、知るべきではないということだろう。噂を聞く度に不安は募るが、望まれてもいないのに首を突っ込んでは、余計な火種になってしまうかもしれない。ならばこれを口にして湊に余計な心配をかけるより、知らぬふりをするのが賢明だろう。
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