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「嫌か?」
自分の持つ感情が恋だの愛だのと名前がつくものであることすら知らない無垢な子に、自分は随分と意地悪なことをしているという自覚が紫呉にはあった。だが、もう気づかないフリをして待つのは止めだ。由弦の心が育つまで、なんて呑気な事を言っていては、この庵にいるのが雪也と周である以上、本懐を遂げるころには二人してお爺ちゃんになっている可能性が非情に高い。
(悪いが、そこまで待つ気はねぇからな)
そんな、ともすれば獰猛ともとられる本音を胸の内で呟きながら、殊更優しく、儚げに微笑みを浮かべた。まるで、あなたに拒絶されることがこれ以上ないほど恐ろしいとでも言わんばかりに。
「……そ、なこと、ない、けど……」
何が起こったのか徐々に理解してきたのだろう、顔を真っ赤にして視線を彷徨わせているが、そこに嫌悪の色はない。やれやれ、やってられないとばかりに鼻を鳴らして、サクラはヒョイと由弦の腕の中から飛び出すと庵に向かって歩き出した。
サクラにまで気遣われて、二人きりとなった空間に紫呉は思わず笑みを零す。胸の内で〝ありがとな〟とサクラに呟いて、アワアワと忙しなく両の手を握っては指を絡めている由弦に、そっと己の手を重ねた。
自分の持つ感情が恋だの愛だのと名前がつくものであることすら知らない無垢な子に、自分は随分と意地悪なことをしているという自覚が紫呉にはあった。だが、もう気づかないフリをして待つのは止めだ。由弦の心が育つまで、なんて呑気な事を言っていては、この庵にいるのが雪也と周である以上、本懐を遂げるころには二人してお爺ちゃんになっている可能性が非情に高い。
(悪いが、そこまで待つ気はねぇからな)
そんな、ともすれば獰猛ともとられる本音を胸の内で呟きながら、殊更優しく、儚げに微笑みを浮かべた。まるで、あなたに拒絶されることがこれ以上ないほど恐ろしいとでも言わんばかりに。
「……そ、なこと、ない、けど……」
何が起こったのか徐々に理解してきたのだろう、顔を真っ赤にして視線を彷徨わせているが、そこに嫌悪の色はない。やれやれ、やってられないとばかりに鼻を鳴らして、サクラはヒョイと由弦の腕の中から飛び出すと庵に向かって歩き出した。
サクラにまで気遣われて、二人きりとなった空間に紫呉は思わず笑みを零す。胸の内で〝ありがとな〟とサクラに呟いて、アワアワと忙しなく両の手を握っては指を絡めている由弦に、そっと己の手を重ねた。
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