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 由弦は太陽のような子だ。無理をしてほしいとは思わないが、願わくば笑っていてほしい。
 そんな紫呉の願いを後押しするように、サクラが由弦の手をペロペロと舐めた。
 すべてを包み込むような温もりに、くすぐったい慈愛。それらにほんの少し肩の力が抜けて、由弦は優しくサクラの頭を撫でた。
「……雪也がさ、大変だったんだ」
 ポツリと零されたそれに、うん、と相槌をうつ。
「何があったか知らねぇけど、雨も降ってないのにずぶ濡れで帰ってきて、ほっぺたが赤くなってて、でも雪也は大丈夫だって。絶対大丈夫じゃないし、何かあったはずなのに、俺には何も言ってくれなかった。周もなんか知ってるみたいだったけど、知らないことにしたって。……可哀想になるくらいほっぺたが赤黒くなってたのに」
 結局、由弦は何もできなかった。頬を腫らしながら何でもないように笑う雪也にも、そんな雪也を何かを耐えるように見つめていた周にも、何かをしてあげるどころか、言葉ひとつかけてあげることができなかった。
「やっと雪也の顔が、いつもの綺麗なんに戻ったなって思ったら、今度は浩二郎って奴が住み着いちゃって、刀を持ってるから、下手に動けなくて。――俺が、あいつを連れて来たから。俺が、傷ついてるからって何も考えずに庵に連れてきちまったからッ」
 誰も由弦を責めなかったけれど、忘れたわけではない。始まりは雪也ではない。由弦だった。
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