必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 痛いほどの沈黙が落ちる。何かを呑みこむように瞼を閉じ、静宮はゆっくりと深呼吸した。
「……顔を、上げてください。春風さんに頭を下げられるのは、心苦しいのです」
 それを望まないと言われれば、これ以上頭を下げ続けるのはただの自己満足になる。否、すでに自己満足に塗れているが、更に重ねるのは自己満足や頑なという言葉では括れないほどになるだろう。ゆっくりと顔を上げれば、静宮は優しく微笑んでいた。
「お国のため、民草のため、衛府のため――華都のため、私は上さんに嫁いできました。気づいていたかと言われたら、最初から、と答えるより他ありません」
 すべての大義のため、この身は犠牲となる。それは茂秋との婚姻による華衛合体の話を聞いた時からわかっていたこと。弥生は衛府の為に静宮を利用したと言ったが、それは華都とて同じことだ。確かにこの城に静宮の味方は少ないが、あの日から故郷にもまた、静宮の味方など存在しない。
 恐ろしい武衛で、恐ろしい城に住まい、愛情のひとつも感じられずにただ死を待つのみ。それを望むことはなかったが、覚悟はしていた。弥生の言葉を借りるなら、確かに静宮は諦めていたのだ。しかし、誤算もあった。
「けど、春風さんが謝る必要は、本当に無いのです」
 それは弥生が近臣の一人にすぎないからではなく、昔馴染みだからでもない。
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