必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 様々な思惑が絡まり、茂秋を武衛の城に帰してあげることができたのは、彼がこの世を去ってから二か月後のことだった。
 極秘事項ではあったものの、流石に正妻たる静宮には秘密裏に知らせは送られていたはずだが、彼女は城に帰ってきた茂秋の眠る棺を前に呆然と立ち尽くした。
 人の言葉ほど不確定なものはない。きっと嘘だ、何かの間違いだと彼女は縋るように信じていたのだろう。しかしその希望も今、目の前で打ち砕かれた。
「姫宮様、上様のご命令により、こちらを上様に代わり春風がお渡しいたします」
 棺の前で座り込み、お付きの者達が声をかけようと反応ひとつしなかった静宮が弥生の言葉にピクリと肩を揺らし、ゆっくりと振り返る。頬に止めどなく流れる涙に込み上げる何かを呑みこみながら、弥生は美しい黒塗りの盆を差し出し、上にかけられていた紫の布を取った。
「上様が姫宮様にお約束された、絹の衣にございます」
 茂秋が静宮の為に、忙しい中を縫って用意した絹織物。この冷たい衛府の中で味方になり、愛してくれた夫から渡されるはずだった、約束の絹。
〝姫宮様には桃色が似合う〟
 そう、言ってくれた。
 まるで春に咲き誇る桜のように淡い桃色の絹織物がその心を表しているかのようであるのに、それが今はどうしようもなく寂しい。
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