必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 わかっている。胸の内でどれほどの言葉を並べ立てようと、何一つ変わらない。でも、だって、と言えば言うほど言い訳がましく、言葉にすればきっと鬱陶しいと思われることだろう。悪手以外の何ものでもなく、何一つ好転などしない。だって雪也は、ずっと〝言い訳〟をしているのだから。
 一人で稼ぎ、一人で生活を営めば、誰の重荷にもならない。守られるのではなく、周や由弦を守っていれば彼らは雪也の存在を疎ましく思うことは無いだろうし、蒼や湊に寄り掛からず適度な距離を保ち続ければ良き友人で居させてくれる。そうしていれば弥生たちも安心して、自らの仕事に集中出来て、雪也もまわりから疎まれ邪険にされることは無い。
 雪也にとって今は、何ものにも代えがたい宝の日々だった。失いたくない、大切な居場所だった。良い子でいれば、誰にも寄り掛からなければ、一人で立っていられれば、きっと大切なものを掴み続けていられる。雪也は本気でそう信じていた。けれど、今回のことで真っ白なそこに一点の黒が落とされた。雪也が〝良い子〟ではなく、間違いを犯した罪の証。それを拭い去りたくて、白に戻そうと必死になって言い訳を並べるけれど、擦れば擦るほど黒は広がって、決して消えてはくれない。
 いつかはこの時が来る。覚悟していたつもりだったのに、結局それは〝つもり〟にすぎなかったのだろう。
〝良い子〟でなくなった時、雪也が縋ったすべてが無くなる。そして今回は既に知られているから、消すことも隠すこともできない。その事実が恐ろしくて、雪也は幼子のようにガタガタと震え、声を殺しながら涙を零し続けた。

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