必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 止めなければならない。今度こそ、言葉にして駄目なのだと伝えなければならない。例え今の一瞬を傷つけてしまったとしても、後々に命を失うくらいならば、今の一瞬の傷を選ぶべきだ。
 気を抜いてしまえば涙が溢れそうで、努めて蒼は淡々と振る舞う。感情のままに振る舞ってはいけない。最小限の傷にしようと荒れ狂う感情を押さえつけるのに必死で、だから雪也が僅かに瞳を彷徨わせていることに気づかなかった。
「弥生様が今回のこと聞いたら怒るだろうね。優様も紫呉様も、よくやったなんて言わない。雪ちゃんはわかってないんだよ。雪ちゃんが犠牲になってすべてが丸く収まったって、それは正解だなんて言わない」
 あなたが大切だから、あなたに苦しんでなんてほしくないから、あなたが犠牲になる道を正解だなんて言えない。よかった、なんて口が裂けても言えない。
「お願いだから、もうこんなことはしないで」
 もう二度と、あなたが倒れただなんて聞きたくない。心臓が潰されたのかと錯覚するほどの、あの衝撃を、あなたは知らないのだ。
「お願いだから……」
 どうか約束をしてほしい。祈るように瞼を閉じた蒼に、雪也は俯いた。
「…………ぅ、ん」
 コクリと頷いた雪也に蒼は勢いよく顔を上げる。安心したのか、泣いているような笑みを浮かべて雪也を抱きしめた。それを受け止めながら、雪也は己の手を強く握る。治まらぬ震えを知るのは、雪也自身だけだった。
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