必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「雪ちゃんがこうなっちまったのは、何でもかんでも雪ちゃんに甘えた町民のせいだからね。聞いてるかい!? そこに居座ってるお前たちのことだよ!」
 知らないフリなどさせないとばかりに糾弾する女将の声に、姿は見えないというのに彼らがビクリと肩を震わせたのがわかった。何を言っているのか聞き取ることはできないが、なにやら揉めている声が聞こえる。そして納まったかと思った次の瞬間、庵の外にいた男達が身を縮こまらせながら庵へ入ってきた。
「ゆ、雪ちゃん……、大丈夫か?」
 女将の怒りを恐れてか、ビクビクとしながらも男達は雪也に視線を向ける。常は凛としてお手本のように背筋を伸ばしている雪也が、今はどこかクッタリと身体から力を抜き、身体を拭き熱を逃がす為だろう、襟元がくつろげられていて少し素肌が見える。ほんのりと赤く染まる頬に、塗れた唇。乱れて肌に張り付く髪はどこか淫靡で、彼の唇から零れる吐息でさえ甘く感じた。そんな雪也に見つめられて、男達は腰に熱が集まるのを感じて顔を茹蛸のように真っ赤にしながらほんの少し前かがみになる。なるだけ不自然にならぬよう四苦八苦しているのだろうが、そんな思いに反して男達が何を考え、どういう状態であるのかは誰の目にも明らかだった。女将たちはあからさまなほどに顔を顰めて不快感を示すが、雪也は生娘のように初心で、同時にほんの少し淫らさを持っているかのように見せながら、胸の内で小さく息をつく。
 今のところは、思惑通り。
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