必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「雪也ッ!」
 思わず由弦が弾けるような笑みを浮かべ叫ぶ。女将もホッとしたように微笑んでいたが、周は言葉すら出てこず、ただただ縋るように雪也の手を両手で握り、そこに額をつけた。そんな周に微笑み、もう片方の手で雪也は彼の頭をポン、ポンと優しく撫でる。
「ごめ……ッ、ね……」
 喋り辛そうにしながらも謝る雪也に、周は無言で何度も何度も首を横に振る。先程の強い意志を光らせていた瞳はこぼれてしまいそうなほどに潤み、泣くのを必死に耐えているようだった。きっと口を開けば声は震え、嗚咽が止まらないと理解しているのだろう、ギュっと唇を引き結んだままの周に代わり、女将が雪也の顔を覗き込んだ。
「気が付いて良かったよ。とりあえず、喉も辛そうだから水を飲みな。苦しいところは無いかい?」
 水、と聞いて飛び上がるように立ち上がった由弦が井戸の方へ走る。サクラが追いかけていく姿を見つめながら、雪也はゆっくりと首を横に振った。小さく息をついて起き上がろうと片手をつく。その姿に周が慌てて雪也の背中を支えた。
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