必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 どうしようかと周は眉間に皺を寄せながら唇を噛み、由弦もサクラを抱っこしながら視線を彷徨わせる。ギュッと瞼を閉じて、周はゆっくりと首を横に振った。
「……今は、医者は呼ばない」
「でも周――」
 周の答えに由弦はハッと顔を上げるが、周は再び首を横に振って遮った。
「今は、呼べない。医者に来てもらっても払えるものが無いし、城下町の薬屋は良い噂、聞かないから。なんとか雪也の身体を冷やして、少し熱が下がったら目が覚めると思うから、その時に薬がどこにあるか聞く。もし、このまま目を覚まさなくて、悪い状態が続くなら……」
「続く、なら……?」
 不安そうに強くサクラを抱く由弦に、周はゆっくりと瞼を開く。その瞳には、強い覚悟が光っていた。
「何をしてでも金を作って、医者を呼ぶ。どんなことをしてでも」
 医者を呼ぶのにどれほどの金子が必要になるか知っている女将は眉根を寄せ、詳しいことは何も知らない由弦も、庵に大勢が運ばれてくるのを見ていればなんとなく想像できて唇を噛む。――その時だった。
「そ……な、こと、しなくて、ぃいょ……」
 カサカサと掠れた声に皆がハッとする。慌てて視線を向ければ、しっかりと閉じられた瞼がゆっくりと開かれ、その潤んだ瞳がのぞいた。
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