415 / 714
414
しおりを挟む
どうしようかと周は眉間に皺を寄せながら唇を噛み、由弦もサクラを抱っこしながら視線を彷徨わせる。ギュッと瞼を閉じて、周はゆっくりと首を横に振った。
「……今は、医者は呼ばない」
「でも周――」
周の答えに由弦はハッと顔を上げるが、周は再び首を横に振って遮った。
「今は、呼べない。医者に来てもらっても払えるものが無いし、城下町の薬屋は良い噂、聞かないから。なんとか雪也の身体を冷やして、少し熱が下がったら目が覚めると思うから、その時に薬がどこにあるか聞く。もし、このまま目を覚まさなくて、悪い状態が続くなら……」
「続く、なら……?」
不安そうに強くサクラを抱く由弦に、周はゆっくりと瞼を開く。その瞳には、強い覚悟が光っていた。
「何をしてでも金を作って、医者を呼ぶ。どんなことをしてでも」
医者を呼ぶのにどれほどの金子が必要になるか知っている女将は眉根を寄せ、詳しいことは何も知らない由弦も、庵に大勢が運ばれてくるのを見ていればなんとなく想像できて唇を噛む。――その時だった。
「そ……な、こと、しなくて、ぃいょ……」
カサカサと掠れた声に皆がハッとする。慌てて視線を向ければ、しっかりと閉じられた瞼がゆっくりと開かれ、その潤んだ瞳がのぞいた。
「……今は、医者は呼ばない」
「でも周――」
周の答えに由弦はハッと顔を上げるが、周は再び首を横に振って遮った。
「今は、呼べない。医者に来てもらっても払えるものが無いし、城下町の薬屋は良い噂、聞かないから。なんとか雪也の身体を冷やして、少し熱が下がったら目が覚めると思うから、その時に薬がどこにあるか聞く。もし、このまま目を覚まさなくて、悪い状態が続くなら……」
「続く、なら……?」
不安そうに強くサクラを抱く由弦に、周はゆっくりと瞼を開く。その瞳には、強い覚悟が光っていた。
「何をしてでも金を作って、医者を呼ぶ。どんなことをしてでも」
医者を呼ぶのにどれほどの金子が必要になるか知っている女将は眉根を寄せ、詳しいことは何も知らない由弦も、庵に大勢が運ばれてくるのを見ていればなんとなく想像できて唇を噛む。――その時だった。
「そ……な、こと、しなくて、ぃいょ……」
カサカサと掠れた声に皆がハッとする。慌てて視線を向ければ、しっかりと閉じられた瞼がゆっくりと開かれ、その潤んだ瞳がのぞいた。
2
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。
後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。
目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。
気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。
街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。
僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。
そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。
それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。
けれど、その幸せは長くは続かなかった。
前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。
そこから、僕の人生は大きく変化していく。
オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
11/23(土)19:30に完結しました。
番外編も追加しました。
第12回BL大賞 参加作品です。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる