必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 冷たい手拭いで額や首を拭いてやれば、赤い顔をしたまま目を瞑っている雪也がホッと、わずかに吐息を零した。赤い顔と荒い呼吸に身体も拭いてあげたほうが雪也も少しは楽になるだろうと思うのだが、周は雪也の襟元に手をかけた瞬間、少し迷って立ち上がり、浩二郎の視線を遮るように着替えなどの時に使っている衝立をズルズルと移動させた。そのことに浩二郎は不快そうに眉を跳ねさせるが、特に何を言うこともない。周が何をしたかったのかを察した由弦が、慌てて窓の障子を閉めてまわった。外では往生際の悪い男達が中を覗こうとしていたが、そんな視線をすべて遮っていく。
「どうする? 随分と高額になるが、医者を呼ぶかい? 私らの時は雪ちゃんが助けてくれていたが、今回は当の雪ちゃんが倒れちまったからねぇ」
 春風家に頼るという方法もあるが、チラと衝立の向こうに視線を向けた女将はその名を口にはしない。庵に居ついてしまった浩二郎が尊皇の志士だという話は町でも有名だ。衝立で視線を遮ったとて、声はどれだけ小声でも聞こえてしまう。雪也や弥生がどういう考えを持っているかわからない以上、関係の無い女将が勝手をするわけにはいかない。
 とはいえ、そうなっては手詰まりであることも事実だ。医者は勿論、薬屋も足元を見ているのか随分と高価で、平民が簡単に利用できなくなっている。だからこそまだ手が届く雪也の薬が重宝されていたのだが、その雪也が動けない今、雪也の薬も服用させることはできない。
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