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「雪ちゃん、少し起きれるかい? 庵までおぶって行ってやるから、もうちょっとの辛抱だよ」
 慣れた様子で雪也の腕を引いて背負おうとする女将に、雪也はもはや意識が朦朧としていて反応はできないが、周りの男達が騒めきだす。
「い、いや、女将じゃ無理だろ! 俺がおぶっていくよ」
 いや俺が、俺もできる、と男達は口々に言うが、そんな前のめりになる男達を女将は追い払い、軽々と雪也を背におぶった。すかさず、若女将が店から夫の羽織を持ってきて雪也の姿を隠すように被せる。
「あんたらみたいな獣に任せられるわけないだろ! だいたい、こっちは何人子供らをおぶってきたと思ってんだいッ。雪ちゃんなんか軽すぎるから大丈夫だよ。お紗枝、あと頼んだよ!」
 若女将に言って、女将は本当に軽々と雪也を背負ったまま歩き出す。親切風を装って大丈夫かと口にしながら追いかけてくる男達の本心などわかりきっている女将は、思わず「ついてくるんじゃないよッ! この獣らがッ!」と叫んでしまう。その声の大きさと内容に、いつの間にか着いていた庵の中からは何かをひっくり返したような音が響き、裏からはキャンキャンと吠えまくるサクラが威嚇し、サクラと一緒に駆け寄ってきた由弦は大勢の男に群がられている女将に背負われた雪也を見て「ぎゃぁああぁあぁぁぁぁぁ」と叫んだ。
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