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 ザワザワと、一歩進むごとに騒めきが聞こえる。煩わしく響くそれが、しかし雪也の目論見通りであると胸の内で口端を吊り上げた。
(もう少し、もう少し……)
 引きずってしまいそうなほどに足が重い。熱くて身体が溶けてしまいそうだ。だが、まだその時ではない。
 顔色が悪いと届け先で心配されるのにも〝大丈夫〟だと返し、いつもより随分と時間をかけて薬を配り終える。
 いつもなら帰りに蒼の店へ寄って野菜を買うが、今日は近づくこともしない。今から雪也が起こすことを知れば、蒼は敏いからすぐに勘付いて、そして自分を責めるだろうから。
 決めたのは自分で、誰のせいにもする気は無い。守るためならば、雪也が持てるすべてを使うまでだ。
 ズル、ズル、と完全に足を引きずりながら前へ進む。そして、揺れて定まらない視界の中、一番人通りが多く店も立ち並ぶその場所で、雪也はわざと全身から力を抜いた。
「きゃぁぁぁぁぁッ!」
 グラリと傾いた華奢な身体に悲鳴が上がる。何が起こったのかわからないと皆が固まったが、その身体が地面に打ち付けられたのを見て、弾かれたように駆け寄った。
「おい! 雪ちゃん大丈夫かッ!」
「雪也さんッ! しっかりしてッ!」
 男の一人が雪也を抱き起せば、目は薄っすらと開いているが身体はグッタリとして力が入っていない。熱があるのだとすぐにわかるほど赤い頬に、熱い身体。
「……んっ……」
 涙で濡れた瞳に、零れた吐息。ゴクリと、男達の喉が鳴り、女達は顔を赤らめる。
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