必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「紫呉様、ただいま戻りました。若様にこちらを」
 足音もさせずに現れた青年――月路は淡々とした口調で話しながらも、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしながら小さな紙片を紫呉に差し出す。折りたたまれた紙片に書かれた筆跡をチラと見て、あぁ、と紫呉は苦笑した。
「まーた雪也にバレたのか。ま、あいつは気配に敏感だからな」
 紫呉の部下である月路はますます眉間に皺を寄せて渋い顔をする。もう何度か弥生の命令で庵の様子を探りに行っているが、初日から雪也に勘付かれ、未だに無敗記録を更新されているのだから、影に生きることを誉とする彼らにとっては悔しいというよりも許しがたい事実なのだろう。
 別に雪也を馬鹿にしているわけではないが、それで良しと思えるほど、まだ矜持を無くしたわけではない。いくら紫呉が手解きしたとはいえ、今の彼はただの薬売りなのだ。自分達のように日常的に鍛えているわけでも、隠密の活動をしているわけでもないのに、彼にサラッと見つけられるどころか弥生にとって有益となる情報を渡してくるなんて。
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